背景
さまざまな産業の操業現場では、定型作業の自動化が進む一方、設備メンテナンスや不規則な工程変更など、人による作業が常に必要とされます。人手を介することでヒューマンエラーの発生は不可避であり、それによりもたらされる経済的損失はプラント運転の大きな課題の一つと言われています。 YOKOGAWAは、ヒューマンエラーにより発生する問題の解決に寄与する技術として、AR技術に着目しました。この技術を、近年急速に発展したモバイル技術とともに製造プラントで活用し、ヒューマンエラー削減に加え、現場作業の安全性、運転効率の向上を目指しています。このコンセプトを “Industrial AR”と称し、お客様との協業や未来に向けた技術開発を進めています。
AR…Augmented Reality(拡張現実):現実世界の物事に対してコンピュータによる情報を付加すること
お客様との実証実験
YOKOGAWAは、AR技術を組み込んだプラントの現場作業を支援するモバイル・ソリューション・システムを開発。お客様とフィールドトライアルを実施する形で、Proof of Concept(概念実証)活動を進めてきました。
下記は、その中の一事例で、AkzoNobel社様との実証の様子です。この事例では、タブレット端末と操業システム(DCS)を連携させ、現場作業員にパトロール・メンテナンス支援ツールを提供しました。
タブレット端末が現場作業員の作業対象となる設備をAR技術で認識すると、端末のカメラ映像上に設備に関連付いたプロセス値などの設備情報を重ねて表示します。また、現場作業員は、作業記録を画像とともに記録することもできます。これらの機能により、実際の設備と設備情報を直観的に関連付けて管理することが可能になります。
このソリューションの導入により、複数種の設備に対する校正作業で最大47%の時間短縮を実現でき、導入効果を確認できました。
AkzoNobel社様との実証の様子
タブレット端末
現場作業員向けのモバイル・アプリケーション
将来構想
AR、モバイル技術は、いずれも日進月歩で技術革新が進展しています。近年では、VR(Virtual Reality バーチャルリアリティ ―― 仮想現実)技術も大流行の兆しを見せており、VR・AR市場の規模は今後の10年で数十億ドル(数千億円)のビッグマーケットに成長するとの予測もあります。
これらの技術が描く将来の姿は、映画やアニメーション、またゲームの世界でも、一流のクリエイターたちによって多くの作品で鮮明に描写されています。
YOKOGAWAは先端技術を製造プラントの世界にあてはめた将来ビジョンを構想し、その実現に向けた技術開発を進めています。
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時間を超える
製造プラントのプロセスは、数年、数十年単位の長時間にわたり動作し続け、かつ時々刻々とその姿を変化させます。原料の組成変化や触媒の劣化は生産効率の低下や品質の劣化を引き起こし、ときには設備故障や人命を損なう大事故にもつながります。時間とともに変化するプラントの様子をつぶさに把握・理解することは、製造プラントの経営者・操業者にとって、長年の夢ともいえるものです。過去の状態を把握し、未来の変化を予測するオンラインシミュレーション技術**と、そこに人間の直感的理解を助けるARやVRが加わるとどのような世界になるか、YOKOGAWAはそのコンセプトを描こうとしています。
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空間を超える
石油・ガスの上流プラントは、人間が立ち入るには適さない、極地、僻地、深海といった過酷な環境であることが多々あります。このような環境下で生産活動を維持していくためには安全面で大きなリスクがあるばかりでなく、人材確保の点で経済的にも膨大なコストがかかります。完全自動化、無人操業を実現することが理想であり、それに向けた技術開発に業界全体で大きな投資がされてきていますが、人手による維持管理作業を完全になくすまでには至っていません。
この領域へのアプローチとして、完全自動化とは異なる視点から、「人による作業を現地に赴かずに実施する」という解決方法があるのではないかとYOKOGAWAは考えています。このコンセプトでは、人間の五感を拡張するARやVR、あるいは人の手足となるロボットの活躍の場が増えてくるはずです。