No.2 ライフサイエンス 特集
巻頭言 ライフサイエンス特集号に寄せて (PDF:244KB/2ページ)
- 山崎 正晴*1
*1 計測事業本部長 兼 航空宇宙・特機事業部長 兼 横河計測株式会社 社長
- 笛木 学*1
- 山宮 広之*2
- 景 虹之*2, *3
*1 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 品証・CS部
*2 計測事業本部 新事業開発センター
*3 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 開発部
横河電機がリアルタイムで細胞観察ができる高速共焦点レーザ顕微鏡の研究開発を始めたのは30年前である。以来,最初の製品CSU10を始め,生細胞による化合物のスクリーニングが可能な創薬支援装置CellVoyagerシリーズ,ALL IN ONEの共焦点顕微鏡ボックスCQ1,細胞の画像解析ソフトウェアCellPathfinderなど多くの製品を提供し,Live cell imaging分野を開拓し,創薬支援装置業界をリードしてきた。本稿では,この先も,世界的な生命科学に対する期待に応えるため,また,横河電機のライフサイエンス事業の更なる発展のため,取り組んでいくべき技術開発を展望する。
創薬の効率化を実現するハイスループット細胞機能探索システムCellVoyager CV8000 (PDF:1568KB/6ページ)
- 坪内 洋平*1
- 坂下 満*1
- 中村 剛*1
- 山本 幸一*1
*1 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 開発部
細胞の画像を取得し,得られた画像を解析することで,一つまたは多数の細胞からなる組織の機能を解明することができるハイスループット細胞機能探索システム(CellVoyager CV8000)を開発した。薬の候補となる化合物を投与した細胞内の変化を,世界最高レベルの高分解能で観察することで,化合物投与による影響を確認する過程を,自動的かつ世界最高の測定スピードで実現することができる。本稿では,従来機種から進化した箇所を中心に,細胞の培養環境保持性能,水浸対物レンズの給水機構,非染色画像取得手法DPC(Digital Phase Contrast),蛍光のクロストーク補正などの新たな機能やアプリケーションへの対応を報告する。
ハイコンテント解析ソフトウェアのための画像処理技術 (PDF:949KB/4ページ)
- 大橋 功治*1
- 伊奈 幸広*1
- 荒木 雅裕*2
- 坂下 浩史*1
*1 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 開発部
*2 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 品質保証・CS部
ハイコンテント解析とは,新薬開発の支援を目的に,細胞又は組織の形状,形態,個数,変動などを,顕微鏡を通して観察し,その様を画像として処理解析し,様々なデータ(例:細胞のサイズ,周囲長,蛍光強度,数量,局在位置,移動速度,総移動距離など)を数値化することである。横河電機は,この分野に特化して独自に開発した画像処理技術を保有しており,その代表例として,画像データ共通化技術,空間と時間の情報を持つ4次元画像解析技術,機械学習を利用した画像認識技術などがある。さらに,これらの技術を組み込んだ解析ソフトウェア(CellPathfinder)も開発している。本稿では,横河が保有する高度な画像処理,画像解析技術について報告する。
ハイスループット細胞機能探索システムによる創薬アプリケーション (PDF:1098KB/4ページ)
- 杉本 和之*1
- 鈴木 真帆海*1
- 岩原 寿典*1
*1 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 営業部
横河電機には,ハイスループット細胞機能探索システム製品として,小型ベンチトップのCQ1と大型ハイエンドのCellVoyager CV8000の2機種,およびハイコンテント解析ソフトウェアCellPathfinderがある。マイクロレンズ付きニポウディスク式共焦点技術をベースに,大量の高精細な顕微鏡画像を自動かつ高速で,2次元だけでなく3次元的に撮像,その画像から様々な情報を取得し,定量解析を行うことができる。また,堅牢な環境制御機構により,細胞本来の機能や特性を維持した状態で観察,撮像することもできる。当社の機器は,これらの技術により,細胞の生理現象を多角的に評価することが可能であり,医薬品開発の分野で活用されつつある。本稿では,当社機器による創薬アプリケーション例として,肝毒性試験,癌細胞の経時的な遊走能(癌細胞が移動できる能力で癌の転移能に関わる)の評価,ゼブラフィッシュの解析について紹介する。
- 景 虹之*1, *2
- 高井 浩典*2
- 東 拓哉*1
- 西出 康貴*2
*1 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 開発部
*2 計測事業本部 新事業開発センター
細胞内物質吸引システムは,ハイコンテントアナリシス(HCA: High content analysis)の手法を用いて,試薬を投与した細胞サンプルを蛍光イメージングによって解析し,その中で所期した反応を示した細胞を素早く捕捉し,注目する細胞内部局所の物質をナノスプレーチップと呼ばれる内径数mmのガラス細管で吸引する。そして,吸引した検体をほぼそのまま1細胞質量分析法にかけ,投与した試薬の薬効,代謝,毒性など解析し,新薬の開発を支援する。
横河電機は,自身が保有する多彩な細胞画像解析技術,高精度な位置決め技術,高度な光学設計技術を融合して,高速高精度の細胞内物質吸引システムを実現した。従来,熟練者が顕微鏡下で細胞を探しながら,時間をかけてナノスプレーチップで細胞を穿刺(せんし),吸引していた再現性が低く難しい作業を,パソコン上のワンクリックにより,狙った細胞の特定部位を高精度で確実に取り出すことを可能にした。本題の装置は,HCAと1細胞質量分析法のシナジーから新たな価値を生み出した世界初のシステムで,ライフサイエンス分野における生命解析の最先端機器とも言える。本論文では,装置を実現するために新たに開発した要素技術を紹介し,細胞吸引から質量分析までの一連の実験結果を説明する。
細胞吸引システムのアプリケーション (PDF:872KB/4ページ)
- 高井 浩典*1
- 西出 康貴*1
- 平井 智子*1
*1 計測事業本部 新事業開発センター
横河電機はナノスプレーチップというキャピラリーを用いて細胞内物質を吸引するシステムを開発した。本システムは,当社が長年培ってきた共焦点顕微鏡技術との連携で,細胞とナノスプレーチップの相対位置を精確に把捉することを可能にし,細胞内の微小な器官を狙って吸引することを実現している。近年,手技に頼った吸引による細胞内への薬物の取り込み,その代謝物の局在を質量分析で確認する手法に関しては多くの論文が提出されている。一方では,共焦点顕微下で狙った特定の細胞に精確にアプローチできるという当社の技術の特性を活かすことで,例えば1細胞の遺伝子解析,パッチクランプ法への応用ができ,研究開発の新たな価値や効率性は向上する。解析対象が細胞の集団から個別の細胞にシフトしている中,当社のシステムは1細胞解析において広い可能性を秘めている。本稿では,細胞吸引システムによる応用例を述べる。
高速超解像共焦点スキャナの開発 (PDF:2063KB/6ページ)
- 東 拓哉*1
- 景 虹之*1
*1 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 開発部
従来,物理的な限界と考えられていた光学顕微鏡の空間分解能の限界を打ち破る超解像顕微鏡技術が開発され,細胞生物学等の様々な分野の先端研究において利用され始めている。しかし,既存の超解像顕微鏡技術は時間分解能が低いため,生細胞の動態を捉えることが困難であった。また,試料や色素の制約があるという課題があった。そのため,生細胞の微細構造を高時間分解能で観察でき,かつ汎用性の高い超解像顕微鏡技術が望まれていた。横河電機は,従来から生細胞観察のスタンダードツールとして最先端の研究に広く利用されている共焦点スキャナユニットCSUをベースに,高時間分解能で汎用性の高い超解像顕微鏡技術である高速超解像共焦点スキャナを開発した。本稿では,その技術と応用例について紹介する。
非染色細胞の画像解析技術 (PDF:1328KB/4ページ)
- 坂下 浩史*1
*1 計測事業本部 ライフサイエンスセンター 開発部
細胞は無色透明なため,非染色の場合,画像にコントラストは殆どない。このため,非染色細胞の画像解析は,蛍光染色をしてコントラストを高めた細胞の画像解析と比較すると非常に難しい。再生医療では,細胞の非染色は必須であり,非染色の画像解析はこの分野において重要な課題となってくる。本論文では,この問題を解決するために,非染色細胞の画像のコントラストを高めるデジタル位相差技術と,識別が困難な細胞に対して機械学習を使った画像認識技術について説明する。この2つの技術をソフトウェア製品CellPathfinderに取り入れ,ユーザは簡単に機械学習を用いて,これまで難しかった非染色細胞の画像解析が可能になった。
バイオ抗体医薬生産ソリューション (PDF:1414KB/6ページ)
- 生田目 哲志*1
- 中村 幸弘*1
- 伊﨑 文晃*1
- 平野 明成*1
*1 マーケティング本部 イノベーションセンター インキュベーション部
抗体医薬品は,遺伝子組み換えされた動物細胞を利用して生産される。細胞はグルコースを主な栄養源としており,細胞の数と状態により変動する栄養要求量に合わせて,培養槽内のグルコース濃度を最適に制御することは,細胞が分泌する抗体の収量向上と品質安定化に有効とされている。本研究では,①細胞の代謝状態を推定するうえで指標となるグルコースと乳酸の濃度を計測するNIRS(Near InfraRed Spectroscopy)インラインセンサ,②生きている細胞の数を計測するインピーダンスインラインセンサ,③細胞の代謝状態の推定に基づいてグルコースの消費量を予測してグルコース溶液を自動流加する制御装置を開発した。本稿では,試作した培養システムを構成する要素技術を説明するとともに,そのシステムを用いた細胞培養において,培養期間を通してグルコース濃度を設定値に維持した検証結果を示す。
小規模設備への無線の導入に適した簡単フィールド無線I/O (PDF:823KB/4ページ)
- 柿原 要*1
*1 IA システム&サービス事業本部 システム事業センター SCADAビジネス開発部
広域に分散した小規模設備の監視/制御アプリケーションに適したフィールド無線製品『STARDOM Wireless I/O』を開発したので紹介する。本製品は,産業オートメーション用無線通信規格ISA100.11aに準じたフィールド無線の現場への迅速かつ最適なコストでの導入を狙ったものである。本製品の利用により,ユーザは無線ネットワークの設計や無線ゲートウェイの設定に関する専門的な知識がなくとも,4-20 mA等の有線と同程度の手間でISA100 Wirelessのフィールド無線を現場に導入でき,無線の恩恵を容易に享受できるようになる。
パイプライン管理ソリューション(EPMS) (PDF:1533KB/6ページ)
- 山形 隆*1
- 笠原 伸一郎*2
*1 IA システム&サービス事業本部 グローバルプロジェクト事業部 エンジニアリング生産技術部
*2 IA システム&サービス事業本部 システム事業センター SCADAビジネス開発部
近年,原油価格下落により石油・ガス大手顧客の設備投資が減少している中,パイプライン業種への設備投資は依然として増加が見込まれ,大量の石油やガスを効率的,かつ確実に遠隔地まで輸送するためのパイプライン管理システムの需要が高まっている。FAST/TOOLSはDCS(Distributed Control System)やRTU(Remote Terminal Unit)からデータを収集・蓄積し監視を行う大規模広域分散型のアプリケーションを対象としたSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)ソフトウェアパッケージである。本稿では,そのFAST/TOOLSをベースとして活用した大規模広域パイプライン管理ソリューションであるEnterprise Pipeline Management Solution(EPMS)の機能及び特長を紹介する。
電磁流量計ADMAG TI シリーズ (PDF:1953KB/8ページ)
- 金子 雄一*1
- 斎藤 雅和*1
- 中山 剛貴*2
- 安田 識央*3
- 針金 大輔*3
- 志村 徹*3
*1 IA プロダクト&サービス事業本部 プロダクト開発センター センサー技術部
*2 IA プロダクト&サービス事業本部 プロダクト開発センター プロダクトハードウェア技術部
*3 IA プロダクト&サービス事業本部 プロダクト事業センター フィールド機器部
横河電機は,新しい電磁流量計ADMAG TI(Total Insight)シリーズを開発した。ADMAGシリーズに,新たにトータルサポート力を意味する“Total Insight”コンセプトを採用し,機種の選定から運転・メンテナンスを含めた製品のライフサイクルを総合的にサポートする。今回,AXGとAXWの2機種をラインアップし,各種アプリ ケーションに対応させた。特にお客様からのご要望が多い振動環境での耐久性改善と,通常運転時やメンテナンス時に要求される診断機能を強化することでメンテナンス性を向上させた。本稿では,これらADMAG TIのキーテクノロジーについて紹介する。