No.2 製造業の変革を進める国際標準化 特集
- 木村 文彦*1
*1 東京大学 名誉教授
持続可能な社会を支える標準化・ルール形成活動の現在地と将来像 (PDF:677KB/4ページ)
- 小田 信二*1
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター
国際標準化活動は,社会課題を解決するための先進国のベストプラクティスを世界中で共有するという形で,持続可能な社会の実現に貢献している。本稿では,YOKOGAWAグループが取り組んでいる製造業における国際標準化がどのような目的を持ち,どのような方向性で行われているかの概観を示す。具体的には,工場のモデル化,情報交換の基盤の確立,製造業におけるサステナビリティへの貢献,などを取り上げる。
Semantic Interoperabilityを実現する国際規格Digital Factory framework (PDF:903KB/6ページ)
- 小野寺 薫*1
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略1部
Smart Manufacturing実現のための重要な課題にSemantic Interoperabilityがある。これは,アーキテクチャの異なるシステムが情報を交換する際に,情報をその意味を損なわずに使用できる能力のことで,ただ「つながる」だけでなく「分かり合える」ことを意味する。Digital Factory frameworkは,Semantic Interoperabilityを実現するために,共通の概念辞書に基づいた共通のモデル・エレメントの構造とその利用規則を規定しており,生産に関わるSystem of Systemsのさまざまな情報を統合するために不可欠な,Smart Manufacturingの基盤となる国際規格である。世界中の通信技術やツールなどが本標準に準拠することで,生産システムのデジタル表現(Digital Factory)の構築が可能となり,生産システムのライフ・サイクル全体にわたるすべての関与者が常に最新の状態に維持された情報を利用できるようになる。本稿では,Digital Factory frameworkの規格概要に加え,Smart Manufacturingにおける国際標準化の重要性とその活動への横河の取り組みを紹介する。
市場の変化に追従できるモノづくりを実現するモジュール型生産システム (PDF:2240KB/6ページ)
- 黒川 晋平*1
- 長谷川 敏*1
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略1部
近年,化学合成医薬品や合成樹脂などに代表される機能性化学品の製造現場では,多様化する顧客ニーズ,製品ライフサイクルの短縮化,途上国における急速な市場拡大,CO2・廃棄物排出量の削減要請などによる市場の変化に追従したモノづくりが求められている。これらの課題を解決するために,従来のバッチ生産方式の操作単位をモジュール化し,自由に組み替えて再構成できる,モジュール型生産システムの導入の動きが活発化している。本稿では,その特徴と,自動化エンジニアリングに関するModule Type Packageの国際標準化の動向を概説する。さらに,日本においてモジュール型生産システムの社会実装を先行しているiFactoryプロジェクトと,本プロジェクトにおける横河電機の取り組みを紹介する。
プラント全体の情報の相互運用性を支える共通の仕組み (PDF:1275KB/6ページ)
- 佐藤 敦*1
- 大野 敏生*2
- 竹内 徹夫*1
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略2部
*2 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略1部
近年,ユーザからの要件は多様化しており,単一ベンダのソリューションで応えることが難しくなってきている。分散制御システム(Distributed Control System: DCS)やプログラマブルロジックコントローラ(Programmable Logic Controller: PLC)計装などの制御システムは,オープンな産業用通信プロトコルを採用することで異なるベンダのコンポーネントやシステムの相互運用性を高めてきたが,これらのプロトコル間の互換性自体が低いため,各コンポーネントが取り扱う情報も異なるプロトコルを採用するベンダ同士では互換性の低い形式で生成,蓄積,転送されている。このような中,多くのベンダやユーザから注目を集めているのが,相互運用のためのOpen Platform Communications Unified Architecture(OPC UA)と,それに関連する国際規格である。本稿では,OPC UAがプラントを構成するコンポーネントやシステムの相互運用性の向上という課題に対してどのように貢献していくのか,その現状と横河電機としての将来の展望を紹介する。
フィールド機器を進化させる通信物理層「Ethernet-APL」と産業用Ethernetの展望 (PDF:857KB/6ページ)
- 遠藤 太郎*1
- 桑原 修二*1
- 髙橋 誠一郎*1
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略2部
Process Automation(PA)プラントで使用される通信技術には長距離通信や防爆エリアでの動作などの要件があり,その要件を満たしている4-20 mA機器やフィールドバス機器が長年にわたり使用されてきた。一方で,汎用Ethernet技術のPAプラントへの導入は,フィールド機器階層におけるDigital TransformationやIT/OT融合の実現にメリットをもたらすことが期待されている。
本稿では,どのようにEthernet-Advanced Physical Layer(APL)がPAプラントの要件に対応できるのかを標準化の視点から説明し,Ethernet-APLがもたらすPAプラントの変化や今後予測される課題を示すとともに,横河電機が果たしうる貢献について,展望と期待を示す。
エネルギーマネジメントの国際標準化に対する取り組み (PDF:910KB/8ページ)
- 池山 智之*1
- 末吉 一雄*1
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略1部
近年,省エネ・脱炭素化の実現とエネルギー効率の向上が求められている。工場はエネルギーの大消費者であるため,わずかな効率改善でもエネルギー消費量の大きな削減につながる。さらに,工場が,所有する自家発電設備の稼働,生産計画,および電力網からの買電量を調整することにより,エネルギーコストの最適化も可能となる。このような工場の活動を支援するため,エネルギー需要量の把握,推定,最適化などを行う高度な工場エネルギーマネジメントシステム(FEMS (Industrial Facility Energy Management System) )の導入の必要性や国際規格整備の要求が高まっている。そのため横河電機は,組織のエネルギーマネジメントの進捗度評価方法(ISO 50011),およびFEMS(IEC 63376)の国際規格について提案している。本稿では,関連する国際規格や開発している国際規格案の概要を紹介する。
プロセス産業のデジタル化を加速させる5G無線通信 (PDF:1095KB/6ページ)
- 西村 豪生*1
- 山本 周二*2
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略2部
*2 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター
モバイル通信ネットワークの最新世代である第5世代移動通信システム(5G)は,従来のコンシューマー利用だけでなく,産業界で幅広く利用されることを想定した無線通信の基盤技術として開発が進んでいる。プロセス産業においても,生産性向上を目的としたデジタル技術の導入が望まれており,場所を選ばずあらゆる機器を接続できる無線通信の重要性はさらに高まっている。本稿では,プロセス産業における5G技術の活用という視点から,5Gの技術概要および想定ユースケースを紹介し,現状と実用化に向けた課題について述べる。横河電機は,5G技術を活用したプロセス産業のさらなるデジタル化を推進するため,実証実験を通じたユースケースの具体化および5Gの産業利用に関わる標準化活動に積極的に取り組んでおり,それらの活動についても紹介する。
プロセスプラントを安全に構築・運用するための枠組み (PDF:1276KB/8ページ)
- 新井 直人*1
*1 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略1部
プラントや地域社会が安全であることは,持続可能な社会を目指す上での大前提である。大規模なマン・マシンシステムであるプロセスプラントでの事故は,プラント内やその近隣における人的被害に加え,経済的および環境的な損害を地球規模でもたらすことがあり,社会への影響は甚大である。重大事故への対応を契機としてプロセス安全に関する法規制が議論された結果,多重防護によるリスク低減の概念や安全計装システムの構築・運用による管理体制が枠組みとして認識されるようになった。本稿では,この枠組みを機能安全規格の概要と合わせて解説するとともに,安全を支援する新技術としての人工知能の活用と,関連する標準化活動の動向について紹介する。
ISO 20391に準拠した細胞数測定と評価 (PDF:1339KB/4ページ)
- 青木 秀年*1
- 荒木 雅裕*2
- 廣谷 桂*3
- 生田目 哲志*1
- 三島 美奈子*1
*1 マーケティング本部 イノベーションセンター ライフ研究開発部
*2 ライフ事業本部 マーケティングセンター プロダクト戦略部
*3 マーケティング本部 渉外・標準化戦略センター 標準化戦略1部
再生医療や細胞治療に用いる細胞には,安定した品質が求められる。そのため生産の工程においては,細胞の状態を把握することを目的として,細胞数測定が行われている。しかし,これまで細胞数の測定は標準的に用いられる方法が定まっておらず,測定プロセスの品質を評価する規格もなかった。そこで発行されたのが国際規格ISO 20391-2である。この規格は,希釈系列の実験デザインと統計学的手法を提示し,品質指標を用いて細胞数測定プロセスの品質を評価する方法を示している。
横河電機の共焦点定量イメージサイトメーターCQ1は,細胞の蛍光および明視野画像の取得と,画像中の細胞数測定が可能な装置である。本稿では,CQ1を使用して浮遊細胞TF-1を培養したサンプル中の細胞数を測定し,その測定プロセスの品質をISO 20391-2に準拠して評価した結果を報告する。また,他社の細胞数測定装置を用いた測定プロセスの品質比較では,CQ1の使用により精度の高い細胞数測定が可能であることが示された。さらに,バイオ分野の標準化に関する横河電機の取り組みについても紹介する。