はじめに
細胞が分裂を繰り返した後、分裂限界を迎えて細胞分裂を不可逆的に停止する現象は、細胞老化と呼ばれ、またそのような状態になった細胞は、老化細胞と呼ばれます。細胞老化は、テロメアの短縮や蓄積されたDNA損傷等によるゲノムの不安定化によって引き起こされ、分裂を停止することにより、細胞が癌化することを抑制すると考えられています。一方で、老化細胞はSASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype)と呼ばれる現象により、炎症性サイトカイン、増殖因子、マトリックスメタロプロテアーゼなどを分泌し、周辺の細胞の癌化を誘発することが最近の研究で分かってきました。このように細胞老化は、腫瘍形成、さらには個体老化との関連も含め、近年、非常に注目を集めるようになりました。このアプリケーションノートでは、老化細胞のマーカーの1つである、SA-β-gal(Senescence-Associated β-galactosidase)活性を指標とした老化細胞検出キット(Cellular Senescence Detection Kit -SPiDER-βGal 株式会社 同仁化学研究所)を用いて、CQ1にて撮像し、ハイコンテント解析ソフトウェア CellPathfinderにて解析を行った評価例をご紹介します。
1.生細胞を用いたSPiDER-βGal染色による解析
実験手順
1.継代回数0回、及び13回のWI-38細胞を96ウェルプレート(Greiner #655896)に播種し、一昼夜培養。
2.Cellular Senescence Detection Kit -SPiDER-βGalのプロトコールに従い、SA-β-gal (老化細胞マーカー)を染色。
3.同時にHoechst33342にて核染色。
4.HBSSにて洗浄しCQ1で撮像。撮像条件は、10倍対物レンズ、405nm(Hoechst33342)、488nm(SPiDER-β-gal)の2波長、各ウェル8視野。
5.CellPathfinderにて画像解析。
図1 SA-β-gal の染色による老化細胞の検出
継代回数0回(A)と継代回数13回(B)の細胞(青:Hoechst33342 緑:SPiDER-βGal)
(C)、(D)はそれぞれ(A)、(B)の解析結果。
405nm画像を用いて核領域を、488nm画像を用いて細胞質領域を認識し、細胞質領域において一定以上の平均輝度値を持つ細胞をSA-β-gal陽性細胞(老化細胞)とした(赤輪郭)。
(E)全核数に対する老化細胞数の割合(%)。継代回数0回の細胞(青)に比べて継代回数13回の細胞(オレンジ)では、SA-β-gal陽性細胞が約6倍に増加している。
(F)各細胞質におけるSA-β-galの総輝度値のヒストグラム。継代回数0回の細胞(青)に比べて継代回数13回の細胞(オレン ジ)では、高い総輝度値を持つ細胞が増加している。
2.固定細胞を用いたSPiDER-βGal及び、DNA損傷マーカー γH2AXの共染色による解析
実験手順
1.継代回数1回、及び10回のWI-38細胞を96ウェルプレートに播種し、一昼夜培養。
2.Cellular Senescence Detection Kit -SPiDER-βGalのプロトコールに従い、SA-β-gal(老化細胞マーカー)を染色。
3.細胞を固定(4% PFA)、及び膜透過処理(0.1% Triton)。
4.抗γH2AX抗体(CSTジャパン #2577S)、Alexa Fluor647標識二次抗体を用いてγH2AX(DNA損傷マーカー)を染色。
5.同時にDAPIを用いて核染色。
6.CQ1にて撮像。撮像条件は、10倍対物レンズ、405nm(DAPI)、488nm(SPiDER-β-gal)、640nm(γH2AX)の3波長、各ウェル6視野。
7.CellPathfinderにて画像解析。
図2 SA-β-gal及びγH2AXの共染色
継代回数1回(A)と継代回数10回(B)の細胞(青:DAPI 緑:SPiDER-βGal ピンク:γH2AX)
(C)、(D)はそれぞれ(A)、(B)の解析結果。
405nm画像を用いて核領域(青輪郭)を、640nm画像を用いて核内のドット(黄色)を、488nm画像を用いて細胞質領域を認識し、細胞質領域において一定以上の平均輝度値を持つ細胞をSA-β-gal陽性細胞とした(オレンジ輪郭)。
(E)継代回数10回の細胞の40倍対物レンズ画像。核内でのγH2AXの局在が明確に見られる。
(F)全核数に対する老化細胞数の割合(%) 。
(G)核面積に占めるγH2AX面積の割合(Ratio_γH2AX/NucArea)のヒストグラム。水色:SA-β-gal陰性細胞 赤:SA-β-gal陽性細胞。継代回数1回(左)に比べて継代回数10回(右)では、Ratio_γH2AX/NucAreaの値が高いSA-β-gal陽性細胞が増加。
結果と考察
継代培養を繰り返したWI-38細胞を用いて、CQ1とCellular Senescence Detection Kit -SPiDER-βGal を使用することで、生細胞、固定細胞ともに、細胞老化の評価が簡便かつ迅速に実施可能であることが示されました。解析ソフトウェアCellPathfinderなら自動で定量解析を行うため、目視による従来法(X-gal法)に比べて高い定量性、再現性が得られます。またCQ1なら、共焦点イメージングの利点を活かし、高倍率の対物レンズを用いた詳細な観察も可能です。
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