はじめに
血管新生とは、既存の血管から枝分かれして新しい血管ネットワークが生じる現象です。生体にとってなくてはならない生理的な現象ですが、同時に様々な疾患と密接に関係しています。例えば、がん細胞は自ら血管新生を誘導することで栄養分の補給路を確保して大きくなることが知られており、その調節因子や機構についての研究が熱心に行われてきました。
実験動物を用いた血管新生測定は古くから行われていますが、定量性・再現性に乏しく、また薬剤探索のスクリーニングに用いるにはスループットの面で課題がありました。培養細胞によるアッセイは実験が容易であるだけでなく、共焦点定量イメージサイトメーターCQ1を使用することで、撮影から解析まで自動化することが可能となり、スループットよく定量性のあるデータを取得することができます。本アプリケーションノートでは、マトリゲル上で血管内皮細胞に血管構造を形成させ、CQ1を用いて血管の長さや分岐数等の特徴量を測定・解析した結果を紹介します。
図1 血管構造を形成した血管内皮細胞の画像とその解析結果
(A)マトリゲル上で血管構造を形成した血管内皮細胞のwell全体の画像
(B)(A)の画像解析結果。4視野にてwell全体を撮影し、タイル機能で1枚の画像に再構成
(C)、(D)は(A)、(B)それぞれの一部拡大画像(白枠部分)
実験手順
- ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を1% FBS添加培地にて一昼夜培養し、血清飢餓処理
- マトリゲルコートを施した96well plateに10,000cells/wellで播種
- 4時間後、HUVECが血管構造を形成したことを確認し、Suramin(0~50µM) およびCellTracker Red 5µMを添加し、37℃にて1時間反応
- 4倍対物レンズ・561nm蛍光励起でZ方向に12枚(764µm)撮像、撮像画像からMIP画像を作成
- タイル機能により4視野分の画像をつなぎあわせ、well全体を1枚の画像として再構成
- CQ1ソフトウェアの血管新生用解析プロトコルにて解析を行い、線状オブジェクトの長さ、分岐ポイント数、枝数についてグラフ化
図2 血管新生に対するSuraminの作用
Suraminは血管新生を用量依存的に阻害することが知られている化合物である
(A)はコントロールとしてSuraminを添加していないwell、(B)はSuramin50µMを添加したwellの画像
(A)では網目状の血管構造がwell全体に形成されているが、(B)ではSuraminの作用により崩壊している
図3 Suraminに対する用量応答曲線
CQ1ソフトウェアの解析メソッドの1つであるスケルトン処理を用いて解析を行い、線状オブジェクトの長さ(左)、分岐ポイント数(中央)、枝数(右)について1wellごとの総和をグラフ化
いずれもSuramin濃度依存的に減少していることが認められる
結果と考察
血管内皮細胞の血管構造形成に対するSuraminの影響を数値化することができました。CQ1を使用することで、撮影から解析まで自動化できるため、スループットよく定量性のあるデータを提供することが可能です。
マトリゲルのように表面の高さが不均一なサンプルであっても、Z方向に複数枚撮影することで細胞の撮り逃しがありません。CQ1は細胞に優しい低退色・低光毒性のため、同一視野で複数回撮影してもサンプルへの影響を最小限に抑えられます。
4倍対物レンズ使用時には、4視野で96well plateの1well全体をカバーでき、タイル機能によって1枚の画像に再構 成してから解析することが可能です。視野ごとに途切れることなく解析できるため、血管構造の総長に対する過小評価や枝数の過大評価を避け、より実態に近い結果を得ることができます。
CQ1は培養環境を保持したまま測定できるため、血管新生の経時変化を測定することも可能です。
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