はじめに
気孔とは葉の裏側などに多く存在する間隙であり、植物と大気環境との接点としてガス交換や水分調節を担う重要な器官です。気孔の開閉は光や湿度などの周囲の環境変化に応じて厳密に制御されており、これは気孔を形成する一対の孔辺細胞の膨圧運動によって実現されています。すなわち、孔辺細胞が膨張すると気孔は開き、逆に収縮すると気孔は閉じます。この気孔開閉運動の機構解明は細胞生物学における中心課題であるばかりでなく、植物の炭酸同化作用を通じた大気環境改善に向けた基礎研究と位置づけられます。
本研究では、気孔開閉における孔辺細胞の細胞内構造・オルガネラの動態を明らかにすることを目的に、ライブイメージング法により立体画像(XYZN) および経時画像(XYT)の取得と解析を行いました。
実験内容
- 各種の細胞内構造・オルガネラを蛍光タンパク質によって可視化した播種後5~7 週目のシロイヌナズナ形質転換体から成熟ロゼット葉を採取
- 葉の裏側の表皮を剥離し、basal buffer に浮かべてプレパラートを作製
- 共焦点ユニットCSU による顕微鏡システムを用いて画像取得
システム 共焦点ユニット CSU10 レーザ 488nm 半導体レーザ (HPU-50101-PFS2, 古河電工)
561nm半導体励起固体レーザ (85-YCA-025-040,CVI Melles Griot)顕微鏡 IX70(オリンパス) カメラ CoolSNAP HQ (PhotoMetrics) 対物レンズ UplanApo 100x/1.35 oil (オリンパス) ソフト Metamorph 7.0 (Molecular Devices) 撮影条件 露光時間:0.5-1.0 sec (1090x762 pixels)
3Dデータ取得条件:10-20画像/1立体 (0.5μmステップ)
結果
15種の細胞内構造・オルガネラについて孔辺細胞の立体構造を複数(50~500 細胞対)撮像しました(図A)。本研究で取得した立体画像は東京大学大学院・馳澤研究室の顕微鏡画像データベースとして公開予定です。また、気孔開閉に応じてアクチン繊維の配向と束化状態が変化することを見出しました(図B)。さらに、アクチン繊維を経時的に観察した結果、1~2秒のうちに配向をおよそ60度も変化させるダイナミックな動きを捉えることが出来ました(図C)。
(A)孔辺細胞における細胞内構造・オルガネラの網羅的ライブイメージングの一例
細胞表層から細胞中央部までを捉えた連続光学切片の最大輝度投影像を示す
a: アクチン繊維(GFP-ABD2)、 b: 微小管(GFP-tubβ)、 c: 液胞膜(GFP-AtVAM3)、 d: 細胞核(HistoneH2B-tdTomato)、
e: 小胞体(GFP-ER)、 f: ゴルジ体(ERD2-GFP)、 g: エンドソーム(ARA6-GFP)、 h: ミトコンドリア(mt-GFP)
(B)気孔開閉時のアクチン繊維の立体構造
(C)孔辺細胞におけるアクチン繊維の動態観察
(D)お使いのCSUシステム
まとめ
本研究により、孔辺細胞における細胞内構造・オルガネラの動態を記録することができました。また、アクチン繊維の高次構造変化が気孔開閉運動に重要な役割を果たすことが示唆されました。
近年、画像解析技術の発達によって生物の多次元的な情報を効率的に捉えられるようになり、大規模な顕微鏡画像取得の必要性はますます高まっています。CSU を利用した本システムは、スループットの高い画像取得法のひとつとして有用と考えられます。
データご提供:データご提供:東京大学大学院新領域創成科学研究科、BIRD JST 桧垣匠先生、馳澤盛一郎先生
参考文献:Higaki T, Sano T, Hasezawa S, Actin microfilament dynamics and actin side-binding proteins in plants. 2007, Curr Opin Plant Biol 10:549-556.
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