はじめに
細胞遊走は、様々な生理機能の発現や発生過程において広くみられる現象であり、骨粗しょう症、関節炎、先天性の脳や心臓異常などの各種疾患や癌転移と深く関連しています。また損傷した組織の回復や再生にも重要な性質です。細胞の遊走能を定量的に評価する手法には様々ありますが、スクラッチアッセイは、簡便で広く用いられている手法で、創傷治癒試験・細胞遊走能試験において用いられる基本的なアッセイです。ここでは、ライブセルイメージングに対応しているCQ1を用いて経時的に細胞数と細胞分布を計測・解析した結果を紹介します。
図1 細胞周期の蛍光プローブFucciを導入したHeLa細胞の単層培養でのスクラッチアッセイのタイムラプス画像
(A) Mitomycin C (MMC) 処理なしのサンプル
(B) MMCで処理したサンプル
それぞれ上段は広視野イメージ、下段は認識された細胞を示す拡大画像(上段の白枠部分)。赤と緑のラベルはそれぞれG1期、S/G2/M期にある細胞を示す
図2 スクラッチ領域での細胞数の時間変化
左はMMC処理なし、右はMMCで処理したサンプル
図1に示したサンプルで、タイムラプス撮影した画像からスクラッチ領域内にある細胞数をカウントした。赤はG1期、緑はS/G2/M期にある細胞を示す
図3 スクラッチアッセイ
コンフルエントな単層培養でウェルにひっかき傷をつけて細胞の無い領域をつくり、その領域が細胞の遊走や増殖により埋められていく様子を観察する
実験手順
24ウェルプレート(Greiner 24 well # 662160)に、細胞周期の進行をリアルタイムでモニタできる蛍光プローブFucciを導入したHeLa細胞を播種し、一昼夜培養
100%コンフルエントになった状態で、ピペットチップでウェルにひっかき傷をつけて溝を作成
1時間のMitomycin C(MMC)処理で細胞周期を停止
培地を交換し、CQ1にて3日間のタイムラプス撮影
撮影条件:対物レンズ 10×、レーザパワー 30%、露光時間 500ミリ秒、撮影間隔 1 時間
結果と考察
CQ1によるタイムラプス観察で細胞の無い領域が徐々に埋められていく様子が観察できました。MMCを添加していないウェルでは細胞周期が進行し、スクラッチ領域においてG1期にある細胞とS/G2/M期にある細胞の両方の増加が認められました。このことから、増殖と細胞遊走の両方によって空隙が埋まっていったと考えられます。一方、MMCを添加したウェルでも同様にスクラッチ領域において時間とともに細胞数の増加が認められましたが、細胞周期の進行は阻害されており、細胞のほとんどがS/G2/M期にある細胞でした。このことから、MMCで処理したサンプルでは、主として細胞遊走によって空隙が埋まっていったと考えられます。
*FUCCI
細胞周期の蛍光プローブ。導入した細胞はG1期には赤、S/G2/M期には緑の蛍光を発する。
*Mitomycin C (MMC)
DNAへの架橋形成、フリーラジカルによるDNA鎖切断を介してDNAの複製を阻害する。
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