横河電機株式会社
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近畿大学 生物理工学部 山縣一夫先生

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世界に先駆けてマウスの長期冷凍保存死体からクローン個体を作出するなど、卓越したクローン技術で世界をリードする、理研CDBゲノムリプログラミング研究チーム・若山照彦研究室に所属されている山縣一夫先生を訪問しました。

山縣先生のご研究について、教えてください-

哺乳動物の受精・初期胚発生におけるジェネティック・エピジェネティックな制御機構に関して研究しています。特に、それらの破たんと発生・出生不全との関連性について、顕微授精や体細胞クローンなどの発生工学技術で構築した胚、モデル動物胚などを用いて明らかにしたいと考えています。この分野では、初期胚の質的量的問題からこれまで免疫染色が主な解析手段でした。

しかし、固定した胚は当然それ以上発生することはないので、免疫染色の結果何か重大な現象や異常が見つかっても、その後の発生にどのように影響するのかについてはもはや知り得ません。そこで、僕らは発生に影響を与えない初期胚のライブセルイメージング技術の開発を行いました。僕らが開発した発生に影響の無いイメージング技術は、「イメージング後にもその胚を別の解析に活用する」という新しい選択肢を手に入れたことになり、これにより初めて現象同士の因果関係や個体発生への影響を検討することが可能になったと思っています。

共焦点スキャナユニットCSUとの出会いは?

十数年前、まだ学生だった頃、分子生物学会での横河電機の展示ブースで見たのが初めてでした。当時は共焦点もニポウディスクも良く知らなかったのですが、GFPで光る線虫が生きたままウネウネ動いている画像と、それを見た知り合いの先生の驚き具合が印象的でした。また担当の方が大変熱心に基本から説明していたことも良く覚えています。

共焦点スキャナユニットCSUを選ばれた理由を教えてください

僕が扱っている細胞は受精卵・初期胚という非常に厚みのある(約100µm)サンプルなので、蛍光観察の際には焦点面以外のボケがとてもやっかいです。はじめは通常の落射型蛍光顕微鏡で取得した画像にデコンボリューション処理を行っていましたが、いくらパラメーターを変えてもベストな像は得られませんでした。そこで、共焦点効果が得られる顕微鏡を、となったわけです。通常、共焦点と言えばシングルビームのスキャニング方式ですが、ライブセルイメージングの場合に胚に対して毒性が高いことが経験的にも文献的にも分かっていたので、それ以外の選択肢として、数社から販売されていたディスクスキャニング方式を採用したタイプを検討しました。その中で、最も高速に画像取得が可能で、かつZ分解能が比較的良くて立体画像が鮮明な点を重視してCSUを選択しました。
もちろん初めてCSUをみたときに感動した記憶もあって実際に初期胚のイメージングを開始する際の候補になったのだと思います。

CSU system

CSUシステム

実際に共焦点スキャナユニットCSUで観察していかがでしたか?

購入してしばらくは先ほど挙げたような利点を活用しつつイメージングを行っていました。その後、高感度なEM-CCDカメラが市場に登場し、CSUに組み合わせてみました。するとそれまでに考えたこともないCSUの特徴に気付きました。それこそが「細胞に対する極端な低毒性」です。詳しくはアプリケーションノートを参照いただくことにして、簡単に言うと、マウスの初期胚について約70時間にわたって計6万枚近くの蛍光画像を取得した後、仮親に移植したところ全く問題なく産仔を得ることができました。これは、CSU元来の「励起光を面で当てる」という性質に加えて、EM-CCDカメラの使用による露光時間の短縮や励起光の減弱化に負うところもあると思います。いずれにしても、CSUは低光毒性な三次元観察を可能にしたという意味で唯一無比の機械だと言えると思います。
また、なかなか壊れません。これは重要な点です。僕の場合、一度イメージングを開始すると3日間から10日間は電源をつけっぱなしです。それをあまり途切れることなくもう5年以上続けていますが一度も不具合が起きたことはありません。これは、ハイエンドユーザーや、大学など技術レベルに差がある現場でも大変重宝する利点ではないでしょうか? ただ、問題点がないわけではありません。CSUをはじめとするシステム、およびその操作ソフトウエアの扱いが煩雑であり、なかなか新規ユーザに使い方を伝授するのが困難です。

 

長時間多次元ライブセルイメージング
左:  DIC 右: 共焦点
play

今後のご研究について教えてください

今後はこのイメージング技術に様々な微量解析技術を組み合わせることで、先ほど説明した本来の興味にアプローチしていきたいと考えています。
さらに、この技術は胚のクオリティーを評価する手段になり得ると考えられます。例えば、分裂中の胚の染色体をイメージングすることで、将来確実に流産してしまう胚を2細胞期で特定できます。今後更なる技術革新を加えて、畜産などの動物生産分野、または生殖医療分野に貢献できることを夢見ています。

CSU system

今後はこのイメージング技術に様々な微量解析技術を組み合わせることで、先ほど説明した本来の興味にアプローチしていきたいと考えています。さらに、この技術は胚のクオリティーを評価する手段になり得ると考えられます。例えば、分裂中の胚の染色体をイメージングすることで、将来確実に流産してしまう胚を2細胞期で特定できます。今後更なる技術革新を加えて、畜産などの動物生産分野、または生殖医療分野に貢献できることを夢見ています。

左:2台目のCSUシステム

Dr.Kazuo Yamagata


10年前、学生時代に展示会でCSUを知っていただいたことが、現在の有用なシステム構築に繋がったことをうかがい、大変嬉しいインタビューになりました。発生初期の分子レベルの変化の結果を成体で確認できる画期的な手法は、育種や遺伝子治療など、様々な応用への発展の可能性が高く、山縣先生の今後の幅広いご活躍に期待します。
ご指摘いただいたシステムと操作ソフトの扱いが煩雑になる点は、ニーズに応じて種々の機器を組合せて使用するハイエンドなシステムの宿命でもあり、弊社で可能なかぎりのサポートを努めておりますが、一方、新規ユーザの方でも簡単に使いこなせるエントリーシステムもご提供可能です


山縣 一夫(やまがた かずお)先生
近畿大学生物理工学部遺伝子工学科 准教授
こちらのインタビューは理化学研究所発生・再生科学総合研究センターゲノム・リプログラミング研究チーム(若山照彦研究室)ご所属時に取材いたしました


取材:2009年6月

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