多様な化学製品を生産・販売する日本最大の化学会社
三菱化学株式会社は、リチウムイオン二次電池材料、スペシャリティケミカル、合成樹脂原料、石油化学原料、基礎化学品など 多岐にわたる化学製品を生産・販売する日本最大の化学会社です。
三菱化学株式会社の鹿島事業所は、鹿島臨海工業地帯の石油化学コンビナート内に位置し、鹿島石油株式会社の鹿島製油所より供給されるナフサから、エチレン、プロピレン、ベンゼンなどを分離精製、さらにそれらを原料として、ポリエチレンやエチレンオキサイド、ポリプロピレンなど様々な誘導品(中間製品)を生産しています。また、鹿島事業所は鹿島石油化学コンビナートの中心的存在として、これらの製品をコンビナート内の会社に石油化学製品の原料として出荷しています。
積極的にフィールドデジタル技術の導入を進めている鹿島事業所
鹿島事業所では、2006年頃より積極的にフィールドデジタル技術の導入を進めてきています。FDT(Field Device Tool)/DTM(Device Type Manager)やEDDL(Electronic Device Description Language)といった標準化技術に準拠したフィールド機器や、PAM(Plant Asset Management)システムを活用し、プラント全体の保全活動の効率化を目指しています。
鹿島事業所には、PAMシステムとしてYokogawaの統合機器管理ソフトウェアパッケージ『PRM(Plant Resource Manager)』が採用されています。『PRM』はAsset Excellence*を実現するためのプラットフォー ムの一つです。
*Yokogawaが推奨する設備最大活用のための仕組み
フィールドデジタル技術の導入の背景
アジアや中東の超大型プラントで生産される安価な石油化学製品の流入や、アメリカのシェールガス革命が及ぼしているエネルギーバランスの変化など、日本の石油化学産業を取り巻く環境は変化が早く、厳しい状況にあると言われています。このような状況のなかで、日本の石油化学産業には、安全安定操業の維持と、生産性向上による競争力強化が求められており、鹿島事業所においても様々な取り組みが行われています。
鹿島事業所設備技術部計装グループチームリーダーの柳澤真之様は、フィールドデジタル技術の導入・活用を進める一人です。フィールドデジタル技術と、それを利用したプラントアセット管理を積極的に取り入れることで、保全活動を支える保全基盤の効率化を図るとともに、保全活動の革新を目指しています。
導入効果
プラントアセット管理による保全基盤要素の効率化
鹿島事業所では、FDT/DTMおよびEDDLに準拠したHARTやFOUNDATION™ フィールドバスなどのフィールドデジタル機器を導入し、フィールド機器のインテリジェント化を進めています。
FDT/DTMおよびEDDLは、フィールド機器向けの共通のフレームワークで、異なるベンダであっても、フィールド機器の情報に統一のプロトコルでアクセスできるようにするための技術です。すでに700台以上のフィールドデジタル機器が、Yokogawaの生産制御システム『CENTUM VP』や安全システム『ProSafe-RS』と接続されています。
これらのフィールドデジタル機器の情報は、フィールドネットワークを通じて、Yokogawaのプラントアセット管理システム『PRM』に収集され、管理されています。
保全担当者は『PRM』がインストールされたパソコンから、オンラインでプラント内のフィールド機器の情報を参照し、パラメータを設定したりすることができるようになりました。これまでのようにベンダごとに異なるコミュニケータをいくつも持って現場に行く必要はありません。コミュニケータで収集したデータを別のデータベースに読み込ませたり、紙で管理したりする必要もなくなりました。
また、HARTやFOUNDATION™フィールドバス等の機器に搭載されている自己診断機能との連携により、メンテナンスが必要な機器をすぐに把握することができるようになりました。機器を修理・交換した場合には、『PRM』に保存されている機器のパラメータをダウンロードすることで迅速な復旧が可能です。シャットダウンメンテナンス後の設定パラメータと、『PRM』に保存されていたパラメータとの比較により、整備不具合の発見につながったケースもありました。フィールドデジタル技術を活用したこのような保全環境の効率化は、保全担当者の作業負荷の軽減や、保全工数および費用の削減に大きく貢献し、保全活動の品質向上にもつながっています。
お客様の声
『PRM』のようなプラントアセット管理システムを導入したことによる効果について、柳澤様は次のようにおっしゃっています。「異なるベンダの様々なフィールドデジタル機器のデータの管理や変更が、現場に行くことなく、一つのシステムで行えることは非常に便利です。FDT/DTM、特にDTMをうまく用いれば、機器のモニタリング自体はそれほど難しいものではありません。
鹿島事業所では、この仕組みによって共通インフラを削減したり、機器データを現場まで取りに行く作業時間を削減したりすることができ、保全環境の効率化を図ることができました。これまで複雑だったデータ管理も簡素化されています。
また、社会環境の変化に対応し、さらなる競争力強化を果たすためには、保全にかかる費用、維持費用の最適化が必要であると考えています。現在、プラントのフィールド機器の点検や交換には、定期保全(Time Based Maintenance:TBM)が多く用いられています。
たとえば、不具合発生時に影響の大きいバルブの分解整備は、過去の点検結果から得られた劣化モードをもとに比較的短周期で整備時期が決められていますが、保全コストが高く、オーバーメンテナンスになっていることがあります。
これを機器の状態の診断に基づく状態基準保全(Condition Based Maintenance:CBM)にシフトしていくことができれば、適切な分解整備周期を知ることができますし、整備時期前であっても故障の予兆をつかむことができるなど、さらに効率的な安全安定操業の実現につながります。そのためには、『PRM』に蓄積された大量のデータから、故障や劣化と相関のある値を用いて設備劣化の進行状況などを診断できる仕組みが必要です。
私たち鹿島事業所と水島事業所では、高頻度オンオフバルブの診断テストや、導圧配管の詰まり診断テストなどに取り組み、機器情報の解析によりバルブの劣化や導圧配管の凍結といったフィールド機器の状態の診断が可能であるという結果を得ています。機器ごとに動作環境や劣化因子など診断に用いる値や傾向が異なりますので、プラント内のすべての機器を対象にすることはできませんが、プラントの操業に影響の大きい主要なフィールド機器にCBMを適用することはとても有効だと思っています。現実的にはなかなかCBMを適用することが難しいのも事実ですが、現在のようにデバイスが大量の情報を保有しており、FDT/DTMのようなインタフェースがあり、『PRM』のようなアセット管理システムに情報を集約できる時代においては、フィールドデジタル技術の、CBMのような保全手法への昇華を考えていくことが必要だと個人的に思います。
この図は、私の思い描くプラントアセット管理の未来予想図ですが、PAMに蓄積された情報を保全員がタブレットやPDAを介して確認することで、日々のメンテナンスやオペレーションに活用できると良いと思っています。また、ベンダから提供される診断アルゴリズムやソフトウェアの充実によって行われるオンライン診断を、CBMの実現以外にも保全計画の策定に役立てるなど、プラントアセット管理システムは、活用次第で計装保全活動全体に大きく寄与できるものだと考えています。
個別の計装機器の保全から、プラント全体の設備管理にシフトしていくためにも、Yokogawaのようなベンダには、引き続き診断ソフトウェアの充実や多様なデバイスによる新しいオペレーションの動線構築、計装設備だけでない設備全体のデータを駆使した保全手法の提案を要望したいですね。私自身も引き続き考えていきたいと思います。」