概要
エネルギー輸入国である日本において、石油ガスの安定供給を図るためには、産油・産ガス国との友好関係の維持が欠かせません。一方、産油・産ガス国では、精製や販売までを含めた産業の強化のため、新しい技術の導入や人材育成に対する要求が高まってきています。
一般財団法人JCCP 国際石油・ガス・持続可能エネルギー協力機関(Japan Cooperation Center for Petroleum and Sustainable Energy、以下JCCP)は、技術協力や人材交流を通じて産油・産ガス国と日本との友好関係を増進するために1981年に設立されました。なかでも人材育成事業はJCCPの事業の柱で、これまでも産油・産ガス国の若手から上級管理層の方々までを日本に招いて、さまざまな研修を提供してきています。JCCPはその活動の一つとして、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)を活用して研修カリキュラムを拡充することを検討していました。
YOKOGAWAと行ったワークショップをとおして、JCCPは最新デジタル技術である仮想現実(VR:Virtual Reality)の活用に大きな価値を感じ、YOKOGAWAのバーチャル現場作業トレーニングを導入することを決定しました。このシステムでは、仮想環境内に構築された化学プラントにおいて、講師がフィールド機器の分解などの作業を行う様子を、各国からリモートで参加する研修生とオンラインで共有することができ、研修生はその場にいなくても臨場感溢れるより実践的なトレーニングを受けることができます。これにより、JCCPは研修参加者の満足度を向上させることができました。
JCCPはこれからも最新デジタル技術を活用し、COVID-19などの外部環境に左右されない魅力的な研修カリキュラムを提供することで、産油・産ガス国とのさらなる友好関係を築いていきます。
お客様の課題とソリューション
お客様の課題
産油・産ガス国はJCCPに対し、近年注目を集めるDXを用いて知識が得られる研修カリキュラムを早期に実施するよう求めていました。しかし、次のような背景から、目標とする期日までにそれらの要求を満たすのは困難な状態でした。
- 数あるDX技術の中で、どの技術がカリキュラム提供に適したものか分からない。また、技術選定ができても、コンテンツとして紹介するユースケースはインターネットなどから得られる表面的な情報にとどまってしまう可能性があり、リアルなプラントに即したカリキュラムを提供できるか不安である。
- COVID-19等により研修生の日本への受入れが困難となったときでも、リモートで実施可能なカリキュラムにする必要があるため、設計が複雑になる。
打開策を見出すために、JCCPはプラント操業のみならず、装置産業向けの最新DX技術やスマートマニュファクチャリングで実績のあるYOKOGAWAにアイデアの提案を求めました。YOKOGAWAはJCCPのキーパーソンを集めたワークショップを開催し、あるべき姿とそれに対する現状を整理しました。その結果、数あるDX技術の中からVRを活用することが適切であると判断し、「バーチャル現場作業トレーニング」を用いた研修カリキュラムの構築をJCCPに提案しました。
バーチャル現場作業トレーニングについて
バーチャル現場作業トレーニングのイメージ
YOKOGAWAが提案したバーチャル現場作業トレーニングは、「現場作業のトレーニングにイノベーションを」をコンセプトとし、仮想空間内に作られたプラントに対する操作を模擬体験できる次世代の3Dソリューションです。プラントのデジタルツインを構築し活用するソリューションです。VRを用いて物理的制約のない仮想環境で行うトレーニングは、今までの現場トレーニングが持つ次のような課題を解決することができます。
- トレーニングの実施可否は、天候・当事者のスケジュール・現場状況に左右される。
- 設備高度化によりインシデント経験機会が減り、いざというときに対応できるか心配。
- 定期修理の事前練習不足により、本番で時間を要してしまう。机上でのイメージトレーニング・機器準備が必要となり、効率が悪い。
- 机上での受動的なカリキュラムが中心であり、研修生のモチベーションが年々下がってきている。
また、プラントを構成する設備や機器の形状を模したデジタルツインだけでなく、オペレータトレーニングシミュレータ(OTS:Operator Training Simulator)と連携して、プラント運転時のプロセス変動を模擬するデジタルツインを構築することで、より実際に近い仮想環境を実現することもできます。
長年培ってきたITとOT(Operational Technology)の知識、および業種のドメインナレッジを最大限に活用し、YOKOGAWAはお客様の納期・予算・希望するトレーニング内容に応じて、汎用的なトレーニングコンテンツおよびカスタマイズしたコンテンツを幅広く提供しています。
ニーズに沿ったソリューション提供
YOKOGAWAはJCCPのニーズに対応できるバーチャル現場作業トレーニングを提供しました。
■リモートでも集合研修でも使えるトレーニングシステム
お客様の要望:
リモートでの実施だけでなく、今後研修生が来日してカリキュラムに参加する場合にも対応できるシステムにしたい。
ソリューション:
- JCCPのサイトにVR体験ができるシステムを4台提供。コストを最小限にするためにOTSは1台のみにインストールし、サーバクライアントシステムとして構築。
- 1台をエンジニアリング可能とすることで、JCCP側でトレーニングコンテンツをアレンジが可能。
- JCCPサイトでの研修カリキュラム実施時には、VRシステムとゴーグルを使用したトレーニングを実施。
- リモートでの実施時には、オンラインリモート会議ツールを用いてVRの映像を画面共有して配信する。
JCCPサイトで研修を行う際のシステム構成
リモートで研修を行う際のシステム構成
■幅広いコンテンツをタイムリーに提供
お客様の要望:
トレーニングを開始したい時期まであまり時間がないが、プラントの現場業務に関する幅広いコンテンツを用意したい。
ソリューション:
YOKOGAWAが持っている汎用的なトレーニングコンテンツ群から、適切なコンテンツを選び、JCCPに提供。提供したコンテンツには以下のようなコンテンツが含まれている。
- OTSを使用した、ボードオペータとの連携を体験できる「ポンプ切り替え」
- ポンプやフィールド機器の機器分解
- 頭上からのレンチ落下などの危険体験
「ポンプ切り替え」コンテンツを体験している様子
■YOKOGAWAによるサポート
お客様の要望:
最新技術を使ったシステムということもあり、導入してすぐにシステムを扱いきれるか不安である。少しずつ慣れていきたい。
ソリューション:
JCCPが段階的にシステムに慣れていけるよう、初期段階はYOKOGAWAの営業または技術者が講師を担当し、デモも含めたトレーニングを実施。想定カリキュラム内容や進め方を指導要領としてドキュメント化し、JCCPへ提供。
お客様にもたらされた価値
バーチャル現場作業トレーニングの導入により、次のような効果がありました。
リモート環境下での受講満足度の維持
リモートでありながらも臨場感溢れる新しい体験を研修参加者へ届けることができ、リモート化で懸念されていた研修生の満足度やモチベーションの低下を防ぐことができました。研修生からは「今まで経験したことのない新鮮な体験である」といった声が多く寄せられ、当該カリキュラムは、JCCPが実施した2021年度の研修の中で極めて高い評価を得ることができました。
DX技術導入のノウハウを産油・産ガス国に共有
トレーニングを通じて、産油・産ガス国の技術者に対して、DX関連技術の情報とそれらを活用するためのノウハウなどを提供することができました。研修生からは「デジタルツイン技術を導入する際の留意事項を理解することができた」などの声を得ることができ、JCCPのプレゼンス向上に寄与しました。
コンテンツ拡充の検討が容易に
導入したシステムを使って、JCCPが自身でコンテンツを編集できるため、今後のカリキュラム拡充の検討がしやすくなりました。YOKOGAWAからのサポートを随時受けることができるため、カリキュラムの開発を無理なく推進する安心感を得ることができました。
お客様の声
JCCPコース担当者様:
YOKOGAWAが現状確認や課題等の深堀りをしてくれたため、適切なソリューションを導入することができたと考えています。システムそのもの以外にも、YOKOGAWAが講師を担当したカリキュラムでは、研修生の主体性を引き出すようなワークショップ形式の講義を実施していただけたことも、研修生の満足度を得ることができた一つの理由になっていると思います。
導入したシステムは私たちでコンテンツ編集ができるため、これまでにないカリキュラムの開発を楽しみにしています。今後も、JCCPではデジタル技術を使った業務改革、DXを推進していきます。