概要
株式会社クボタと松下電工株式会社(現パナソニックホールディングス株式会社)によって設立されたケイミュー株式会社は、屋根材・外壁材・雨といといった外装材をトータルに扱う日本国内唯一の会社です。独自技術を活かした屋根材や外壁材は、軽くて美しいだけでなく、地震など災害の多い日本の住環境を守るソリューションの一つとして提供されています。なかでも、セメント系瓦市場において、ケイミューは国内トップシェアを誇っています。
ケイミューの滋賀工場は、西日本向けの屋根材(スレート材)を製造する主力工場です。滋賀工場では、技術開発を行う奈良テクノセンターとともに、スレート材の品質安定化を目指していました。長年蓄積している製造データを、ものづくりの知見と照らし合わせて解析し、品質に影響を及ぼす要因を探ってきましたが、製造工程においてさまざまな変動が起こるため、結論にたどり着くのは困難な道のりでした。そこで、ケイミューは改善パートナーとしてYOKOGAWAに声をかけ、データ解析や自動化の仕組みづくりに取り組むことにしました。
数年にわたるコラボレーションの結果、現在スレート材の成形工程には、品質に影響を及ぼす因子を考慮してつくられた「自動制御システム」が導入されており、人手による調整をほとんど行うことなく、高品質なスレート材が製造できるようになっています。
お客様の課題とソリューション
スレート材の製造プロセス
スレート材は、主原料であるセメントに、強度を出すためのパルプや水を加えて攪拌したものをベルトコンベヤーの上に散布し、ローラーで成形するなどして作られます。製造装置はPLCによって制御されています。 特に、散布直後にピッカーロールと呼ばれるローラーで表面を掻き取ることで、スレート材の表面が平らに成形され、厚みが決められます。掻き取られるなどしてできた端材は、リターン材として製造プロセスに戻して再利用されています。
PLCで制御される巨大な製造装置
ピッカーロール
製造プロセス概略図
データ解析の難しさ
滋賀工場では、2002年から毎日 2,600万点もの設備やプロセスのデータを蓄積していました。奈良テクノセンターの中田良治氏が開発したソフトウェアで、長年蓄積されたデータが見える化されており、何か異常が起こった際には「現場強化班」のメンバーがデータ解析を行って品質改善にあたっていました。また、大きな取り組みとして品質にばらつきが起こる要因を特定しようとしていましたが、次のようなことがデータ解析を困難なものにしていました。
- 原料の輸入先が多様化しており、原料そのものにばらつきがあること
- リターン材の発生する工程・経過時間によって水分量などの状態が異なること
- それらの要因に対応するため、ベテランの作業オペレータが経験と勘によってピッカーロールの高さや加水量などを頻繁に調節していること
- 設備全体となると解析する範囲が大きすぎること
原料の計量からスレート材を成形するまでの成形工程には1~2時間、加工や養生の工程を含めた全行程には約2日間かかり、そこではじめて品質の不良が分かるため、万が一の場合には、この間に大量の製品が作られてしまいます。不良ロットとなるのを避けるため、ベテランの作業オペレータが製造ラインを見ながら頻繁に設定変更を行っており、その負荷軽減も課題の一つでした。
解析を通じて、原料の質の変動による影響が大きいことは掴めていましたが、運転中にその変動を捉えることが難しかったため、ケイミューは改善パートナーとしてYOKOGAWAに声をかけました。
ベルトコンベヤーで運ばれる成形されたスレート材
原料の質の変動を見える化
2017年4月、データ解析による改善ワークショップがスタートし、ケイミューとYOKOGAWAのコラボレーションが始まりました。YOKOGAWAの改善コンサルタント 山本徹は、提供されたデータから、原料のバージン材の変動をデータで検知できる可能性を提言しました。山本はケイミューとの打ち合わせを重ね、製造設備や製造プロセス、取り付けられているセンサの種類や位置を理解し、運転日誌や現場へのアンケート結果なども参考に、実際にどのようなものづくりが行われているかを把握していきました。バージン材の変動を評価するためのロジックを探るために、YOKOGAWAとケイミューの双方によってさらに解析が進められました。データを見ながらの議論は毎回白熱し、山本が工場を訪問すると帰りはいつも日が暮れていました。
約120タグに及ぶデータを解析した結果、原料の質の変動と相関する着目すべきタグが特定されました。2017年12月、それらの原料の変動パターンを現場で監視・把握できる「見える化システム」が構築され、原料に応じて適切な運転ができるようになり、この年のワークショップは成功裏に終了しました。
自動制御システムの構築
次のステップとして、2020年にはこれまで作業オペレータが“匠の技”で行っていたピッカーロールの高さ調整を自動化するための新たなチャレンジが始まりました。奈良テクノセンターの藤澤聡昭氏とYOKOGAWAの出野冬起の若い二名が主担当として加わり、自動運転の運転条件を定義するために、新たな解析を進めました。データ解析は、ケイミューがYOKOGAWAのプロセスデータ解析ソフトウェア Process Data Analytics(PDA)を用いて行い、その結果やさらなる解析の進め方について、双方の知見を持ち寄っての活発な議論が行われました。特に、滋賀工場の製造グループ 田中耕一作業長の頭の中にある知識やノウハウを、すべて出し切って整理して欲しいというのが、ケイミューの強い希望でした。
続いてケイミューとYOKOAGWAは二人三脚で、制御フローの検討を行い、製品品質に影響を及ぼすデータに応じてピッカーロールの高さを自動調整するシステムを構築しました。
スレート材の厚みを決めるピッカーロール
コンベヤー脇に設置された自動制御システムの監視画面
運転効率向上支援パッケージExapilotを核とする自動制御システムでは、製品長さ・重量・板厚などの製品品質パラメータや関連するデータをもとに、Exapilotがピッカーロールの高さをリアルタイムに計算します。その値をOPCサーバ経由でPLCに渡すことで、ピッカーロールの高さを自動的に調整しています。窯業におけるフィードバック制御の導入は珍しいケースです。これにより、常に安定した品質でスレート材が製造できるようになりました。作業オペレータが頻繁に行っていた手動での調整はなくなり、作業負荷が劇的に削減され、一段レベルの高い品質管理のための業務にあたることができるようになりました。
オートパイロットをイメージした飛行機のマークが運転状態を表示
お客様の声
-- YOKOGAWAに声をかけた背景について
「展示会で初めて声をかけました。」
「品質のばらつきをなくすことや、作業している人の負荷を軽減することはもちろんですが、私たちはフィードバック制御、もっというと原料の状態から品質値を推定するなどして、フィードフォワード制御を導入することを目標にしていました。そのためにすでにケイミューのトップランナーとして、滋賀工場でデータを蓄積し、見える化や解析も行っていました。」
「品質に影響する要因としては、掴めているものもありましたが、手動介入などがデータのノイズとなってしまい、あと一歩結論にたどり着けない状態でした。そこで、解析のプロと一緒にやろうということで、YOKOGAWAに声をかけさせてもらいました。」
-- YOKOGAWAの課題解決アプローチは、いかがでしたか?
「私たちのものづくりを徹底的に理解し、データをともに解析し、その結果を共有して進めていくというやり方は、私たちに合っていると感じます。私たちのような装置産業では、同じ設備条件で製造しようとしても、その時どきの原材料の状態や設備の状態により、安定した製造をすることはできません。YOKOGAWAは製造プロセスを徹底的に理解して、起こり得るさまざまな現象を理解した上で解析を行っていると感じています。他社の解析結果では、それらのさまざまな現象に対応することができず、原材料や設備の状態が安定しているという限られた条件の場合のみ対応可能な結果となってしまっていました。」
「通常のデータ解析や機械学習でも同じような結果が出ると思うが、YOKOGAWAはいろいろな要因について私たちにヒヤリングしたり、起こりうるさまざまなケースを数字で示してくれたので、メンバーは腹落ちしながら活動できたのではないでしょうか。」
「バチンときていました。」
「田中作業長の頭の中にある経験やノウハウを、全部外に出して整理したいと思っていたので、それが叶い、良かったです。」
-- 作業オペレータによる調整は頻繁に行われていたのですか?
「ピッカーロールの高さだけでなく、関連しそうなところの圧力を変えるとか、水分量を変えてみるとか、いろいろなことが行われており、負荷も高かったです。」
「ベテランのオペレータはそれぞれ独自のスキルを持っていて、破壊検査で落として割ってみた様子を見て水分量がどうだとか、そういったことを感覚で覚えています。各自がそれぞれのやり方で調整を行うので、そういった違いが『ノイズ』となって、データ解析が難しくなってもいました。今では、データを見ながら製品の性状がどうなっているかを話し合ったりすることができています。また、彼らの感覚が良い意味でデータで証明されたケースも多くありました。」
-- 自動制御システムを導入した効果は?
「製造をスタートして、データが入り始める最初の5分間ほどを除いては、もうほとんど自動運転を実現できています。オペレータは専用の画面を見て、もし自動運転を外れる条件となったときは手動介入するのですが、それもほとんどありません。」
「製造ラインをじっと見ている働き方ではなく、品質管理に目を配るQCマンとしての業務を行うことができるようになりました。労働人口が減少するなか、モチベーションの高い働き方ができる職場であることはとても重要ですし、生み出された時間を活用して、特に若手には新しいことにどんどんチャレンジして欲しいと考えています。」
「私は20年前にも一度、ピッカーロールの高さ調整自動化をやろうと考えたことがありました。しかし当時はデータがなかった。人に依存したものづくりから脱却するためにも、データを取って解析したいとずっと思っていました。やっと夢が叶いました。」
「やりたい、と思ったことが実現できているという実感があります。こうした成功体験がモチベーションの源泉となっていると思います。成果が出ると、どんどんと次を目指そうとなる。こういう成功体験ができる人や機会を、社内にもっと増やしていきたいですね。」
-- 今後のチャレンジについて
「データの質や精度、信頼性をさらに上げていくことを目指しています。製品品質の平均値の下限値、すなわち軽量化しても十分な強度が保たれるレベルでスレート材を安定的に製造できれば、コスト削減にもつながります。」
「コスト削減もそうですが、重さもです。軽量の屋根材の方が地震に強いと言われています。
地震の多い日本において、社会的責任、ものづくりの使命を果たすために、品質のばらつきをなくし、機能を保ちつつ軽さを追求していきたい。これにはもう明日にでも取り組みたいです。」
「滋賀工場の取り組みを、ケイミューの全工場に展開していくことが次のチャレンジです。そのためには、データ解析ができる人材を増やしていかなければなりません。」
「今後は環境をより考慮したものづくり、カーボンニュートラルなどに取り組んでいく必要があると考えています。原料や作り方を変える必要もあるでしょう。これからもデータや私たちの知見を活用し、いろいろなことに取り組んでいきます。」
-- YOKOGAWAへの期待について
「引き続き自動制御をご支援いただきたいです。他の工程、他の工場にも広げていかなければなりませんし、目指すのはフィードフォワード制御です。」
「工場のスタッフや作業長に余裕ができると、現場が強くなります。こういった活動への協力や、データ解析のできる人材の育成にも協力いただきたいです。」
上川様(滋賀工場 製造グループ長)、谷藤様(滋賀工場長)、中田様(奈良テクノセンター 生産技術統括部 システム技術開発グループ長)、西浦様(奈良テクノセンター 生産技術統括部長)、田中様(滋賀工場 製造グループ 作業長)、藤澤様(奈良テクノセンター 生産技術統括部 システム技術開発グループ 担当課長)/ 出野、山本、宮川、山口(YOKOGAWA)
*部署名称・役職はインタビュー時のものです。
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