概要
三菱ガス化学株式会社は、天然ガスや石油化学品を原料とする各種化学品を製造する日本の化学会社です。日本国内に天然ガス田鉱区を持つ同社は、日本で初めて天然ガスを原料にメタノールやアンモニアの生産を開始するなど、天然ガス化学のパイオニアとしても知られています。
“社会と分かち合える価値の創造”をグループビジョンとする同社は、化学技術に基づいた製品やサービスを、日本のみならずアジア、北米、欧州などのさまざまな業種に向けて提供しています。
三菱ガス化学水島工場は、石油精製工程で得られる混合キシレンを原料として、オリジナリティの高い芳香族系石油化学品を製造・販売しています。それらの製品は、プラスチックやペットボトル、香料など、さまざまな用途の素材・原料として幅広く用いられています。
安全性や生産性を向上するため、水島工場では数多くの改善活動が継続して行われています。そのなかから、データ解析によってプロセスの安定化に成功し、運転員の作業負荷の軽減につながった事例をご紹介します。
お客様の課題
水島工場の製品の一つである芳香族系の誘導品は、連続プロセスにて生産され、YOKOGAWAの生産制御システムCENTUM VPによって監視制御されています。それぞれの工程には運転効率や品質のために特に注視すべき監視ポイントがあり、運転員はそれらの値に気を配りながらプラントを運転しています。
そのなかでプラントでは、プロセスの一層の安定化と、その結果としての原料原単位の改善が重要な課題となっていました。プロセスに変動が起こった場合、運転員は手動でCENTUM VPを操作して対処しなければならないため作業負荷が上がります。当時、昼夜でのプロセス変動が発生していたものの、要因の特定には至っていませんでした。
そこで、プロセスの安定化による運転員の負荷削減と、原単位安定化によるコスト削減を目的に、水島工場はYOKOGAWAの解析ソリューションを利用することにしました。
お客様との共同解析
2015年7月、水島工場に解析ツールProcess Data Analytics(PDA)が導入され、共同解析が始まりました。
スタッフリーダーの竹田 司様は、解析ソリューションを導入することになった背景を次のように振り返りました。
「私たちのプラントでは、非定常作業の自動化をはじめ、YOKOGAWAのソリューションを活用しながらさまざまな改善活動に取り組んできています。いろいろな製品やソリューションを紹介していただきましたが、そのなかでふと見かけた“解析”が目に留まり『これは面白そうだ。原料原単位の改善に使えるんじゃないか?』と思って、利用してみることにしました。」
Process Data Analyticsの画面例
プロセス変動の要因を知るための解析
プロセスに変動が起こっているときに製造プロセス全体で何が起きているのかを知り、課題を解決するために、YOKOGAWAの解析エンジニア 上田 健夫は解析作業を始めました。
プラント情報管理システムExaquantumに数千タグに及び蓄積されているプロセスデータを解析するためには、原料や製品、製造プロセス、制御方法など、プロセス全体を深く理解しなければなりません。また、定常時のみならず非定常時に運転員がどのような操作を行っているかについても理解が必要です。上田は竹田様と会話しながら、装置の見学をはじめ、CENTUM VPグラフィック画面、P&IDの制御方法などプロセス全体への理解を深めました。あわせてプラントから提供されたデータの解析を進めました。
解析作業を進めるなかで、二人は原料の流量制御に着目しました。
「たった1%の原料流量の差が、プロセスに大きな変動を与えるだろうか?」
気温や気圧の違いによる流量の昼夜変動は確かにありましたが、上田は先入観にとらわれず、さまざまな手法を取り入れ、データの解析を進めていきました。
上田は解析作業を次のように振り返ります。
「水島工場様の解析では、プラントの数千タグがどのような状態になっているかを想像しながら解析を行うという、自分史上最もタフな解析となりましたが、竹田様はじめ製造課の皆様と一つひとつ情報共有しながら解析を進めることができました。私が質問をすると、どんな質問でもすぐに的確な回答をいただくことができました。さすがプラントを良く熟知していらっしゃると感じました。
YOKOGAWAの解析と言うとMT法が特長の一つですが、それだけではありません。YOKOGAWAの解析の特長である4M(原料(Materia))・設備(Machine)・オペレーション(huMan)・製造レシピ(Method))の変動を基軸とした視点から、お客様のプラントデータに合った解析手法を用いたり、微細な特徴も見逃さないようデータに前処理や変換を施すなど、さまざまな角度からアプローチしています。また、YOKOGAWAだけが要因を理解できていれば良いということではなく、その特徴を示すデータをお客様に分かりやすいように見ていただけるよう工夫しています。なぜなら、解析の結果に十分な納得感が得られなければ、課題を解決するための次のアクションにつなげていただくことができないからです。」
解析の経過は幾度も共有され、次の作業に必要となる情報やプロセスデータは何であるかを密に話し合いながら、共同解析が進められました。そして、翌8月にはプロセス変動を引き起こす複数の要因を見つけることができました。それらはやはり原料流量の変動に起因しているものでした。現場の素朴な疑問であったわずか1%の原料流量の違いが、プロセスを大きく変動させていたことが、データによって証明されました。
変動を抑えるための対策案を検討し実施
「解析」は、課題の要因を特定して終わるだけでは意味がありません。プラントを熟知した製造のプロである水島工場のスタッフたちと、計装のプロでもあるYOKOGAWAは、その変動を抑えるための対策案の検討を開始しました。
その結果として、プロセスを安定させるための制御方案が検討され、水島工場では実際にCENTUM VPによる制御ループの変更・改善が実施されました。
改善の結果
新しい制御方案によってプロセスの安定化が図られた結果、アラーム発生回数や運転員の手動操作が大きく削減されました。アラームの発生回数は、設定値を変更していないにもかかわらず、約20%削減されました。MV値(操作量)とSV値(設定値)の手動操作回数は、ともに約30%削減することができました。プロセスが安定したことによって、原料原単位も改善し、現場からは「CENTUMがとても静かになった」という声が上がりました。
これからも、超安定プラントを目指し、さまざまな課題解決を行うためのツールの1つとして、プラントではPDAが日常的に活用されており、現場の運転員の皆さんの現場力は向上し続けています。
共同解析結果 原料・製品(品質)・収益(コスト)
お客様の声
第一製造部長兼動力部長 石倉 正則様:
「プラントにとって“安全”がまず第一です。安全を確保した上で、生産性向上にも取り組んでいます。安全や生産性向上のためにも、運転員個人個人のレベルが上がり、意識が変わることには大きな意義があると思っています。解析は教育や人財育成という面でも役に立っています。
ただし、データ解析を行うこと自体が目的ではありません。“何かが起こったあとの解析”ではなく、起こる前に各自が気付くことができるようになるのが理想です。さらには物理現象的、化学的に何が起こっているかまでを、若手には理解してもらいたい。ベテランはそれらを経験から理解していますが、若いメンバには解析を通じていろいろなことを学んでほしいですね。解析はプロセス改善にも役立ちますし、教育としても有効です。」
第一製造部 第二製造課長 稲垣 晋様:
「解析は安定運転に寄与し始めています。PDAのようなツールは、特にこれからの時代を担う若手メンバたちが積極的に使っています。自分なりにプロセスを理解し、発見し、“未病”の状態でトラブルを未然に防げているのではないかと思います。改善活動の継続によって、運転員のスキルは大きく向上し、プロセスの安定を日々実感しています。
水島工場では他の部署でもさまざまな改善活動が行われていますが、非定常操作の自動化にも使われているExapilotは、すべての課で使用されています。そのなかでも当課はExapilotのトップランナーであるという自負があります。YOKOGAWAはいつもアトラクティブなツールを紹介してくれるので、感謝しています。」
第一製造部 第二製造課 課長代理 井筒 俊夫様:
「私たちの職場では一連の改善活動を行ってきましたが、解析などの取り組みを通じて好奇心のある人財が増える、すなわち自律的に動け、目の前にある装置の異常に気が付ける、そんな人財が増えるということはとても良いことです。
解析は、プロセスフローを理解したり、時間のながれで工程を考えたりすることにも役立つと思っています。運転員はしばしば感覚で機械的に思い込んでしまっていることもあるのですが、解析することによって新たに気付くこともあります。今回の原料原単位についても、この思い込みが改善の妨げになっていたのかもしれません。運転員がより広い視野を持てるよう、今後も解析を役立てていきたいと思います。」
第一製造部 第二製造課 辻 幹様:
「現在、解析のリーダーを担当しています。私が新入社員として配属されたとき、職場の先輩たちが非定常作業の自動化に取り組んでいました。それを見ていて、次に何か改善活動が行われるなら自分もやってみたいと思っていましたので、竹田さんに解析に誘われたときは自分から手を挙げました。
運転レポートなどの資料を見ると、運転員たちがPDAのデータを使っているのを見かけます。解析メンバ以外の人にもツールが浸透してきていると感じています。プロセスを自分たちの手で改善していくのは、とてもやりがいのあることだと思っています。」
工務部 保全課 則包 健志様:
「現在は保全課に在籍していますが、当初の解析メンバとして竹田さんと解析にあたっていました。解析作業の始まりは、毎朝職場に来たときに、前日からの運転状況を確認できるようにしたいというものでした。当初、ツールを使うのは私だけでしたが、今では使えるメンバも増えています。
解析をするようになっていろいろな意味で視野が広がったことは収穫でした。難しい計算も使うようになりましたし、仕事の幅も広がりました。」
第一製造部 第二製造課 竹田 司様:
「取り組みは、大成功で幕を閉じました。プロセスは安定し、運転員の笑顔は増えました。一番の収穫は、この取り組みで初めて知り合った方々との出会い。解析のみならず、今後、さまざまなシーンで大きな木の根っこのような広がりを見せてくれると信じています。私の仕事は、仲間たちが活き活きと働ける環境を作ること。その仲間たちが、家族のもとへ無事に帰り、翌日、また元気に出社してくれることが私の喜びです。
YOKOGAWAには、もっと私たちとのコミュニケーションを深めて、運転員の生の声をソリューションに反映してほしいと思っています。時代に先駆けた取り組みは継続しています。今後も現場のニーズに合った”根付くソリューション“を提供していただきたいですね。私を驚かせてください。(笑)」
※部署名、役職はお話をうかがった当時のものです。
YOKOGAWAの解析エンジニア 上田 健夫:
「三菱ガス化学様は、解析ツールであるPDAの一番最初のお客様です。PDAは解析作業のなかで使われ、その際私は竹田様や則包様に使い方をご説明しました。それが今や、お客様サイトでは運転員の皆様が当たり前のようにPDAを使っていらっしゃいます。お客様はこれまでもYOKOGAWAのソリューションを活用してさまざまな改善活動をされてきていますが、PDAがその一つとして浸透し、活用していただいていることをとても嬉しく感じています。
また、他のケースでは課題特定に至っても、そのあと実際の課題解決まで進まないことも多いのですが、今回水島工場様では対策案を検討し実施するところまで行うことができました。安全で効率的な運転を目指して、常に改善活動を行ってこられたお客様ならではの行動力だと思いました。竹田様をはじめお客様には、毎日プラント運転で多忙ななか、共通の目標を実現するために議論に議論を重ねさせていただき、本当にありがとうございました。
お客様、ビジネスパートナーである八洲貿易株式会社、そしてYOKOGAWAが一丸となって、全員で一つのゴールに向かうことができたことが、プロジェクトを成功させた大きな要因だと思っています。
これからも、お客様の製造現場の皆様に喜んでいただけるソリューションの提供、ならびに日本の製造業の現場力向上、製品競争力の向上に貢献していきたいと思います。」
プラントの皆様との近影
後列:研究技術部 製造技術グループ 村上様、第一製造部 第二製造課 課長代理 堀内様、工務部 保全課 則包様
前列:成松(横河ソリューションサービス)、第一製造部 第二製造課 辻様、竹田様、八洲貿易株式会社 藤井様
業種
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