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環境モニタリングシステムを用いた製造環境と設備のリアルタイム監視 ~データ活用で高品質な医薬品をお客様に届ける千寿製薬株式会社様~

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お客様のチャレンジ

製造環境データのリアルタイム監視、医薬品規制対応、データを用いた傾向監視

 

得られた成果

データの可視化による製品品質と製造環境の維持・向上、設備保全の効率化・予知保全の実現、医薬品規制対応

 

千寿製薬株式会社様

概要

千寿製薬株式会社は、眼科領域および耳鼻科領域に向けた医療用医薬品、一般薬、および動物用医薬品等を製造する製薬会社です。マイティアシリーズの目薬で広く知られる千寿製薬は、医療用医薬品の分野では、希少疾患に対する替えの利かない薬剤を提供していることでも知られており、創薬や医薬品の製造によって世界中の人々の目の健康に貢献しています。

医薬品を安全かつ高い品質で製造することができるよう、製薬会社には厚生労働省や米国FDAなどの各種ガイドラインに準拠することが求められています。世界中の製薬会社は、原材料から最終製品までの厳しい品質管理や、製造環境の記録・モニタリングが行えるよう取り組んでおり、千寿製薬も例外ではありません。
兵庫県にある千寿製薬の福崎工場では、YOKOGAWAの医薬品・医療機器業界向けの環境モニタリングシステム「OpreX™ Environmental Monitoring System(以下、OpreX EMS)」を導入し、工場内の製造環境データ(温度・湿度・クリーンルームの室間差圧など)や製造設備の運転データの記録とモニタリングを行っています。

マイティアシリーズ

*マイティアシリーズの写真は2022年11月現在のものです。

 

お客様の課題

環境モニタリングの重要性

医薬品・医療機器工場の製品を製造・試験・保管するエリアでは、GMPやQMSなどの規制に準拠し、空調設備や試験設備等の温度、湿度、室間差圧、空気中の微粒子などの環境データを正確性、完全性、網羅性、保存性が担保されたデータとして記録・管理することが求められています。また、継続的にそれらの環境データをモニタリングすることが求められています。
さらに、電子的に記録されるコンピュータシステムには、Data Integrity、米国食品医薬品局(FDA)21 CFR Part11(以下、Part11)に対応する電子記録、電子署名、ロジカルセキュリティ、監査証跡などの機能が求められています。

千寿製薬の福崎工場はこれらの要求を満たすシステムとして、YOKOGAWAの環境モニタリングシステム OpreX™ Environmental Monitoring Systemを導入しました。しかし、工場のねらいは単に規制に対応することだけではありませんでした。

 

システム導入のねらい

千寿製薬では、以前よりPart11に対応可能なYOKOGAWAのOpreX™ Data Acquisitionシリーズのペーパレスレコーダを標準採用し、製造室やクリーンルームに設置していました。しかし、記録データは個々のペーパレスレコーダだけに保存されていたため、次のような課題がありました。

  • 記録データを取り出す際、ペーパレスレコーダが設置されている現場まで直接行き、レコーダに内蔵されているSDカードを取り出さなければならなかった。
  • SDカードを紛失したり、SDカード自体が壊れた場合、データ欠損のリスクがあった。
  • オフィスエリアから環境データをリアルタイム監視することができなかった。
  • ペーパレスレコーダに蓄積された過去データは、長期間保管されているが、俯瞰的な傾向分析や中長期にわたるデータ活用ができていなかった。

福崎工場 製造部部長の岡部豊隆氏は、OpreX EMS導入の背景をこう振り返りました。
「私は、製造現場で生まれるデータや情報の“人依存”をやめたいと考えていました。困ったときは○○さんがいるから大丈夫、以前のことは○○さんに聞けばいい、というような習慣からの脱却です。人材の流動化が盛んになり、働き方の価値観や選択肢も広がり、雇用形態も変化しています。ベテランの引退や知識伝承の難しさという課題もあります。これからは、たとえばいつもと違うことが起こった際、特定の人のノウハウに頼るのではなく、“データ”を見ながら何がどうして起こっているのかを見極め、すばやく適切に対処できるようにしたいと考えていました。そのためにも、ガイダンス値や一義的な基準値にのみ対応するのではなく、データを用いて福崎工場としての傾向監視や予知分析をしたいと思っていました。」

 

YOKOGAWAのソリューション

OpreX EMSの導入

システム導入の経緯を、本プロジェクトを推進した製造部プロジェクトマネジャーの長谷川和久氏はこう振り返ります。
「環境モニタリングシステムは当社の研究所がはじめに導入しました。GMP等への対応もありますが、全社的にデータを可視化したり集中管理することへのニーズがありました。何か異常があった際にアラートを受け取り、現状のデータ確認ができれば即座に対応をとることができます。福崎工場ではYOKOGAWAの記録計を長年使っており知見もありましたので、OpreX EMSの機能の優位性を感じ導入を決めました。」

長谷川氏は自身が描いたRFP(提案依頼書)を用いてYOKOGAWAと打ち合わせを重ねました。YOKOGAWAは既存の記録計システムや、工場のネットワークシステムについてリサーチを行い、最適なシステム構成を提案しました。また、実施に際しては製造設備メーカや空調設備工事メーカとも個別の調整が行われました。

各製造エリアに設置された温度センサなどのデータは、有線で接続されたGX10などのペーパレスレコーダの内部メモリに保存されます。GX10はPart11やALCOA+に則ったData Integrityに対応しており、それ自身でも高いセキュリティ性を持っています。データは記録計内部のSDカードにも保存されるほか、サーバにも転送され、厳格なアクセス制御のもと長期間保管されます。これはまた、万が一不具合が生じた際にデータが欠損してしまうことに備えたリスク分散も兼ねています。

OpreX EMSのシステム構成概念図
OpreX EMSのシステム構成概念図

データロギングソフトウェア GA10がインストールされたオフィスエリアの監視用クライアントPCでは、データのリアルタイム監視や記録データの閲覧、記録計の設定などを行うことができます。
センサデータに異常があった場合には、メールサーバを介して管理者宛てに電子メールが送信されます。同時にそのアラートはサーバにも送られ、監視用PCでも確認することができます。

 

リアルタイムで把握できるデータの活用

千寿製薬福崎工場の管理部用役グループのグループマネジャー 清本則彰氏は、リアルタイムにデータが見えるようになったことを、こう評価します。
「ファシリティの管理面では、データが可視化されて傾向監視できるようになったことで、この設備でそろそろアラートが出そうだとか、そろそろ分解整備や部品交換が必要だということが数字で示せるようになりました。保守に関する予算計画の背景としても、データを示してその必要性を説明できるようになりました。
これまでの傾向監視は熟練者によって手間と時間をかけて行っていましたが、OpreX EMSの導入により短い時間でデータによる監視ができるようになりました。製造環境に関するデータは1分周期で記録され、集中監視もされています。空調機器の劣化の兆候を把握するなど、日頃の保守作業にもデータを活用しています。」

 

製造環境のデータで製品品質を守る

福崎工場で現在OpreX EMSの活用を推進している管理部用役グループ主任の駒田孝文氏は、データが可視化されたことが製品品質に貢献していると言います。
「製造エリア内の温度や湿度は、季節や天候などさまざまな影響を受けます。夕立が降ったり、室内で洗浄作業を行うことでも値が変動します。製品品質を維持するためには、温度や湿度を定められた範囲に保つことが重要ですが、データがリアルタイムに見えることで、もしものときは値が逸脱する前に対応をとることができるようになりました。設備の状態によって多少の変動があった場合などにも、データを見て品質を保つための環境が維持できていることを明確に判断することができますので、私たちのお薬を待ってくれている患者様に品質の高い製品をお届けすることができていると考えています。」

 

データのさらなる活用が今後のチャレンジ

福崎工場は、データが可視化され、安全に蓄積できるようになったことはスタート地点に過ぎないと考えています。今後は製造環境のデータにPLC(Programmable Logic Controller)が持つプロセスデータを紐付けて解析するなど、システムを拡張していくことで、製造の現場で起こる事象とデータの変化についてさらに知見を積み重ね、操業改善につなげたいと言います。OpreX EMSは単なるデータ収集システムではなく、生産効率の向上、予期せぬ設備トラブルの防止など、さまざまに活用できるシステムとして捉えられています。

 

お客様の声

-- OpreX EMSを導入した効果はいかがですか?

「製造環境がデータとしてリアルタイムに見られることは、すごく価値があることです。もしも何か不具合が起きかけていることに気が付かずに、たとえばクリーンルームが定められた清浄度を保てなくなったりでもしたら、生産計画への影響は甚大です。事象が起きてからの原因調査は多岐にわたり、困難を極めることも予想されます。結果的にクリーンルームを立ち上げ直すにしても数日間は製造を行うことができません。しかし今ではデータが可視化され、ファシリティの特徴や実績も加味したアラームが通知されますので、そうなる前に対応することができます。何よりも、良好な環境で製造した品質の高い製品を、自信をもってお客様にお届けすることができているのではないでしょうか。」

-- 今後の取り組みについて教えてください。

「OpreX EMSの導入により、日常のオペレーションを改善していく環境が整いました。しかし、過去のものも含めてデータを積み重ね、手間をかけて分析していくには、まだスタート地点に立ったばかりかもしれません。人材の育成や、OpreX EMSを中心としてどのように他システムやデータと連携させ、システムを拡張していくかなど、得られるデータに興味を持つ同志を増やし、考えていかなければならないことはたくさんあります。」
「理想形としては、製造オペレータがデータを見ながら運転を行い、何かが起こりそうだと感じ取ったら、即時の初動対応をとっていくような、一段高いオペレーションができると良いと考えています。そのためにデータをより一層活用して知見を共有していかなければなりません。」

-- 「Good Company」や「If I were you」は素敵な理念ですね。

「“Big Company”より“Good Company”を目指すという経営理念は、とても分かりやすいですし共感できます。行動理念である“If I were you”も含め、社員同士で普段から良く使っています。たとえば会議中も、理念や指針をもとに協調を呼びかけたり、相手の立場やお客様の立場に立って議論を行っていますし、皆がGood Companyであることを意識した活動を行っています。シンプルで広がりのある理念や指針が社員に良く浸透していると思います。」

-- YOKOGAWAへの期待を教えてください。

「YOKOGAWAの製品がバージョンアップしたり、機能追加したりする裏には、最新の規制への対応だけでなく、さまざまなユーザのニーズに基づいた背景があるのではないかと思っています。その背景もあわせて共有いただければ、当社も次に何をしなければならないかが分かるのではないかと期待しています。業種や業界の最新トレンドやニーズに基づく提案をいただけるとありがたいですし、その対象として福崎工場が選ばれるように我々もより一層のコミュニケーションをとっていきたいと思います。」

千寿製薬株式会社 駒田様、清本様、岡部様、長谷川様
千寿製薬株式会社 駒田様、清本様、岡部様、長谷川様

業種

  • 医薬品

    変化の激しい現代では、今迄以上に経営判断には、スピードと正確性が求められています。
    医薬品業界においても、ICT技術を活用したパラダイムシフト(QbD、連続生産)が起き、そうした潮流の中で如何に情報をキャッチアップしていくかが企業の課題です。
    YOKOGAWAは、原薬・製剤・バイオ領域への1000を超えるシステムの導入実績を礎に、これからも医薬品産業の更なる発展に貢献して行きます。

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  • 環境モニタリングシステム

    OpreX Environmental Monitoring System は、医薬品製造・品質管理・保管等の環境モニタリングを目的として、温度・湿度・室間差圧をはじめとした管理データの測定・記録・長期保存を行います。

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