横河電機株式会社
横河ソリューションサービス株式会社

半導体用フォトレジスト向け製造実行システム

最高品質の半導体用フォトレジストの製造を支援する、高いトレーサビリティを兼ね備えた製造実行システム (MES) 事例をご紹介します。

 

概要

変化のスピードが速く、回路の小型集積化や高性能化が急激に進む半導体業界。微細加工技術はナノメートルという領域で日々進化を続けている。半導体製造に不可欠な化学薬品 フォトレジストにも、この微細加工技術に対応した高性能高品質の製品が求められている。半導体製造メーカーからフォトレジストメーカーへの要求は日々高度化し、製品の性能や品質のみならず、今や医薬品製造にも劣らない製造工程のトレーサビリティが求められるようになってきている。
東京応化工業株式会社 (TOK) は、最高品質のフォトレジストを製造するために、台湾の苗栗縣銅鑼に最新鋭の製造設備と製造実行システム (MES: Manufacturing Execution System) を兼ね備えた銅鑼工場を設立した。MES の導入により、作業工程を徹底的に標準化した。銅鑼工場は操業開始直後から常に安定した高品質のフォトレジストを製造、顧客からの信頼を勝ち得ている。


[東京応化工業株式会社]
半導体や液晶ディスプレイ等の製造プロセスで用いられるフォトレジスト(感光性樹脂)や高純度化学薬品を中心とした高機能化学材料のほか、半導体・液晶パネル用の製造装置、その他化学薬品を製造・販売する。高付加価値な技術と製品をグローバルに展開している。
1940年創業。

[台湾東應化社 銅鑼工場]
TOK が台湾苗栗縣に設立した半導体製造用フォトレジスト製造工場。主にナノメートル領域に対応した先端プロセス向けフォトレジストを製造。
2014年11月操業開始。

台湾東應化社 銅鑼工場
台湾東應化社 銅鑼工場

 

お客様の課題とソリューション

顧客密着戦略に基づいた最新鋭製造工場の設立

TOK は1998年に半導体メーカーの多い台湾に進出し、シンナーなどの半導体付属薬品の製造を行ってきた。

年々厳しくなる顧客の要求。競争が激しく、微細加工技術の進化のスピードが速い半導体業界では、TOK のような半導体向け化学薬品メーカーだけでなく、顧客もまた厳しい競争にさらされ、チャレンジを強いられていた。
TOK は台湾の重要顧客とともに持続的成長を遂げるために高付加価値の半導体用フォトレジストを現地生産することを決断した。
顧客である半導体メーカーの近くに生産拠点を構えてみると、顧客の新しい要望や将来展望など、実際の「生の声」が聞こえてくるようになり、それが新しい製品開発にもつながってくるようになった。

2014年11月に操業を開始した銅鑼工場には、最高品質のフォトレジストを製造するために、最先端の製造設備が装備された。

MES による現地生産の垂直立ち上げ

銅鑼工場の立ち上げにあたって、TOK はサードパーティ製の MES を導入することを考えていた。従来は内製の MES が用いられていたが、専門要員の育成に課題があった。顧客から要求のあったトレーサビリティ機能にも対応する必要があった。

MES のベンダーとして、TOK は工場の生産制御システムも手掛けていた YOKOGAWA を選択した。

フォトレジストの製造に要する時間は、原料投入から製品完成まで約2週間。現地スタッフによって数多くの作業工程を間違いなく実行し、安定した品質の製品を作り続ける仕組みが必要だった。

YOKOGAWA は TOK とともに、製造工程一つひとつを洗い出し、整理した。
製造工程で管理されていた情報は数多く、IT システムとして構築するには、製造に関わるすべての情報を理解し構造化する必要があった。
TOK と YOKOGAWA は何度も議論を重ね、TOK の持つ製造工程についての豊富な知識と経験をシステム要件に落とし込むことに成功した。

銅鑼工場のクリーンルーム内の製造設備
銅鑼工場のクリーンルーム内の製造設備

YOKOGAWA はその要件に基づき、現場作業支援を行う MES を構築した。

MES は顧客からのオーダーを製造指図に変換。生産制御システムと連携し、製造工程に合わせて作業エリア内の PC に詳しい作業手順を表示する。オペレーターは指示に従って、システムとインターロックを取りながら確実に作業を進める。
使用した原材料ロットや分量、設備や工程パラメーターなどの実績データは、作業工程も含めてすべてトラッキングされ、あとからレポート機能によって確認できるようになっている。

MES の画面例

MES の画面例
(工程の進捗に応じて、正しい操作手順が設定値などとともに詳細に指示される)

MESによるきめ細かい作業指示

MESによるきめ細かい作業指示
(TOKとYOKOGAWAはこれらの作業手順までを詳細に洗い出した)

ボトル1本ごとの製造情報を追跡できるトレーサビリティの確保

MES への要件は、製造支援機能だけではなかった。
製品製造における原材料使用実績、製造工程実績、検査実績等を蓄積し、その製品の原材料ロット、工程の処理実績を追跡することによって、品質影響を予見するための変化点の洗い出しや、共通原材料の使用または同時期に工程処理された製品を把握できる機能が必要だった。たとえば、何らかの異常が発生した場合、その原因を究明するために、同様の製造過程を追跡調査するには膨大な時間を要する。このように、製造情報のトレーサビリティは品質管理面で非常に重要であり、大容量情報の蓄積と高速検索が課題となっていた。

そこで YOKOGAWA は、MES にトラッキング機能とレポート機能を持たせた。
トラッキング機能は、製品を起点とするトレースバック、原材料を起点とするトレースフォワードの双方向から、製品~中間品~原材料間の相互の関連を詳細に追跡することが可能となっている。

レポート機能は、製造工程における 4M (Man, Machine, Material, Method) のすべての詳細な製造実績情報を、工程の上流から下流までの記録が一目で確認できる形式で出力することが可能となっている。もちろん、レポート作成にかかっていた工数は大幅に削減され、新たな品質改善活動に費やす時間の確保にもつながっている。

これらの機能によって、ボトル1本毎に全ての製造記録が紐付けられ、さらに高速処理できるようになったメリットは大きく、銅鑼工場で作られる製品に大きな付加価値を与え、顧客からの高い信頼を勝ち得るファクタの一つとなっている。

 

お客様の声

銅鑼工場は、現地スタッフを中心としたオペレーションの新設工場でありながら、短期間での量産体制構築に成功した。これは、日本で培われてきた製造技術を徹底的に標準化し、多品目の製造においても作業ミスが起きない仕組みを構築できた点で、MES の導入が非常に大きく貢献している。また、将来的に製造品種を拡大する場面においても、MES の簡便なマスタ編集によって製造工程レシピを組み立てられる設計となっており、拡張性にも優れている。生産計画から製品完成までを一元管理することが可能となり、トレーサビリティ機能も充実化したことで、製造されるフォトレジストはこれまで以上の安定した高品質を誇り、クリーンで微細な半導体製造プロセスを支える製造材料として、顧客から選ばれ続けている。

副総経理兼銅鑼工場長の河下隆様

銅鑼工場設立のコンセプトは、最高品質の工場を目指すことでした。MES の導入により、当初の目的は達成できました。特にトレーサビリティの確保によって顧客にこれまで以上の詳細な製造情報が提供できることは銅鑼工場の強みと言え、お客様からも高く評価していただいています。
しかし半導体業界は進歩のスピードが速く、私たちのお客様である半導体メーカーもまたチャレンジを続けている状況です。私たちもそのスピード感に付いていく必要があります。お客様によってフォトレジストに求めるものは異なりますが、綿密なやり取りをしながらきめ細かく個々に対応できることは TOK の強みでもあります。ますます厳しくなるお客様からの要求に応え、いつまでも銅鑼工場の製品は最高だと言われ続けるために、これからも新製品への対応や生産システムの機能拡張を、スピード感をもって進めていきたいと考えています。そのためにも、YOKOGAWA にも同じスピード感で、地域密着で今後も対応していただけたらと思っています。

現在銅鑼工場の敷地内に建設中の新工場では、半導体向けフォトレジストの付属薬品を製造することを計画しています。この製品に対しても、フォトレジストと同じような最高の製造設備とトレーサビリティを持たせる予定です。他社の作れないようなものを作り、競合優位性を高める。それが新工場の狙いです。

お客様とともに成長し、台湾の半導体業界の発展にも貢献していくことが、現在の私たちの夢でもあります。

業種

  • 化学

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    私たちの暮らしと日本のものづくりを支える化学産業。石油化学、機能性化学、ライフサイエンスなど分野も広く、製造現場が抱える課題や解決方法は多様化しています。「人」を中心として化学品製造業を取り巻く環境も大きく変わりつつある今、YOKOGAWA はDigital Transformation (DX) により実現される「新しい働き方」についてお客様と共有し、共にプラントの価値最大化を目指します。

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