目次
1. はじめに
横河電機 (以下、当社)は、世界で初めて 1969 年に産業用渦流量計をリリースし、1979年には汎用型の渦流量計 YEWFLO シリーズをリリースしました。それから 50 年以上、世界中で累計 50 万台を超える販売実績で、お客様の生産性向上に貢献してきました。独自の検出構造により、上流側の直管長が短いことが特長となっています。
一般的に渦流量計は、流路内の流速分布に偏りや乱れが生じると渦発生体後方に発生するカルマン渦が乱され、流量測定に影響を与えます。そのため、偏りや乱れを落ち着かせるために最低限必要とされる直管長を各ベンダーが規定しています。
本記事では渦流量計 VY シリーズを例として直管長が必要な理由を説明していきます。
2. 直管長の基本的な考え方
直管長とは渦流量計上流側及び下流側から、縮小管、拡大管、曲がり管、バルブなどの流れを変化させる要素までの直線配管の長さとなります。この直線配管は水平向き、垂直向き、あるいは斜め向きでも構いません。
図 1 : 直管長 (一般仕様書より抜粋)
2.1. 直管長の表記と実際の寸法
直管長は一般的に 5D、10D、20Dと表記されます。D は配管の内径を示し、25A であれば約 25 mm、50A であれば約 50 mmとなります (同一の配管口径でもスケジュール番号によって配管内径は異なりますので、配管内径の寸法は各種規格をご確認ください)。そのため、10D は 25A 配管であれば約 10*25 = 250 mm、50A 配管であれば約 10*50 = 500 mmとなります (図 2)。すなわち、配管内径によって同じ直管長の表記であっても、実際の寸法は異なります。
10D は 25A なら 約 250 mm ですが、50A なら約 500 mm、200A なら 10*200 = 約 2000 mmとなり、直管長だけでも大きなスペースが必要となってきます。そのため、大きな直管長は特に既設ラインや狭小設備に流量計を設置する場合に制約となります。
渦流量計 VY シリーズのフランジタイプは必要な直管長が比較的短いため、渦流量計の中でも設置場所を選びやすいという特長があります。
図 2 : 同じ直管長でも異なる寸法
2.2. 直管長は流体の乱れを抑える
「図3」は流体流れのシミュレーション結果です。流体の流れを示した流線とその流線の流速をカラーバーで表示しています。流入口から曲がり管までの流れは、乱れなく直線状の流線となっています。その後、流れを変化させる要素である曲がり管を通過すると乱れています。
渦流量計における渦発生回数と流速の関係は安定した流れであることを精度保証上の前提条件としています。そのため、精度のよい流量測定には乱れの少ない流れである必要があります。精度の良い流量測定を実現するため、流体の乱れを落ち着かせる直管長が必要となります。
図 3 : 単一曲がり管による流体乱れ
「図 4」は単一曲がり管による流体流れのシミュレーション動画です。流入口から乱れなく曲がり管に到達した流線が、曲がり管を通過すると乱れているのがわかります。直管長ごとに乱れ方は異なり、10D ではおおよそ安定していることがわかります (図5)。実際に渦流量計は 10D で精度の良い流量測定を行うことができ、シミュレーション結果とよく一致しています。
図 4 : 単一曲がり管による流体乱れ
(流体種: 水, 流入流速 : 5 m/s, 配管寸法: 50A Sch40, 直管長: 曲がり管の上下流共に直管長 10D )
図 5 : 直管長による流体乱れの違い (図 3 と同一条件)
また、「図 6」は 50A と 25A のシミュレーション結果を比較したものです。ほぼ同様の結果が出ており、10D で流れが安定していることが分かります。このように、流体乱れが直管区間で落ち着く物理現象は相似則となり、直管長も相似則となっています。
図 6 : 流体の乱れは相似則となっている 注: 同一縮尺となるように図を調整
(流体種: 水, 流入流速: 5m/s, 配管寸法: 50A 及び 25A Sch40, 直管長: 曲がり管の上下流共に直管長 10D)
更に、流体が水と空気の場合のシミュレーション結果を比較すると、流体種でも大きな変化がないことがわかります (図 7)。そのため、直管長は 5D、10D などの内径 D のみを基準とすることができます。
図 7 : 流体の種類によって直管長は変化しない
(流体種: 水及び空気, 流入流速: 5m/s, 配管寸法: 50A Sch40, 直管長: 曲がり管の上下流共に直管長 10D)
3. 各種条件で必要な直管長
ここまで直管長の基本事項を示してきました。ここからは、渦流量計 VY シリーズを例題として、様々な配管要素を組み合わせた各種条件で必要な直管長を具体的に示していきます。必要な直管長は流体種にもよらず、すべて内径 D が基準となります。
特に、渦流量計 VY シリーズは渦発生体とセンサーが一体の独自構造により、取付姿勢に影響を受けずにカルマン渦を捉えることができるため、必要直管長も取付姿勢により変化しません。加えて、流速分布の不均一による精度変化に強いため、他社渦流量計よりも短い直管長を実現しています。一方で、下流側直管長は渦流量計の構造によって決まります。渦流量計 VY シリーズは渦発生体とセンサーが一体の独自構造であることから上流側の配管条件によらず 5D 以上となります。
注意事項として、曲がり管等の形状は様々で組合せが無数にあります。また、流体の粘性やレイノルズ数などの流体種による変化もあり、影響を及ぼす因子も多数あることから、測定状況を見極めながらの利用を推奨します。
その際、渦流量計 VY シリーズでは、流体測定の健全性を確認するための渦波形モニター機能を FSA130 電磁流量計・渦流量計 ベリフィケーションツールで提供しておりますので必要に応じてご検討ください。
3.1. 縮小管: 上流側 5D 以上・下流側 5D 以上
渦流量計 VY シリーズにおいて、縮小管が上流にある場合の必要な直管長は上流側 5D 以上となります。他の条件と比べて直管長が短いのは、縮小管では比較的流体の乱れが起きにくいためです (図 8, 図 9)。
渦流量計で測定可能な流速を確保する際に縮小管と配管径を戻すために拡大管を用いる場合があります。その場合は縮小管と拡大管が一体となった VY レデューサ形を利用することで、縮小管・拡大管及び直管長に必要なストレート配管を簡略化することができます。
なお、VY レデューサ形に必要な直管長は標準形と同じです。
図 8 : 縮小管の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流出流速: 5m/s, 配管寸法: 縮小管上流側 80A Sch40, 縮小管下流側 50A Sch40, 直管長:縮小管の上下流共に直管長 10D)
図 9 : 縮小管による直管長ごとの流体乱れ (図 7と同一条件)
3.2. 拡大管: 上流側 10D 以上・下流側 5D 以上
渦流量計 VY シリーズにおいて、拡大管が上流にある場合に必要な直管長は 10D 以上となります。縮小管と比べると、拡大管直後は拡大前の流線が中央に残り壁面付近の流れが遅くなります (図 10)。管全体に均一な流れとなるまでに 10D 以上の直管長が必要となります (図 11)。
図 10 : 拡大管の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流出流速: 5m/s, 配管寸法: 拡大管上流側 40A Sch40, 拡大管下流側 50A Sch40, 直管長:拡大管の上下流共に直管長 10D)
図 11 : 拡大管による直管長ごとの流体乱れ (図10 と同一条件)
3.3. 単一曲がり管: 上流側 10D 以上・下流側 5D 以上
渦流量計 VY シリーズにおいて、単一曲がり管が上流にある場合に必要な直管長は 10D 以上となります。曲がり管内部で流速が変化し、曲がり管下流側では流線が乱れています。曲がり管下流側では流線の画面上下方向の入れ替えが見られます。流れ方向がほぼ管路に水平となるような落ち着いた流れとなるには、直管長は 10D 以上必要となります。(図 12,図 13)。
図 12: 単一曲がり管の流体シミュレーション結果 (図 4 と同一)
図 13 : 単一曲がり管による直管長ごとの流体乱れ (図 12 と同一条件)
3.4. 2重曲がり管・同一平面: 上流側 10D 以上・下流側 5D 以上
渦流量計 VY シリーズにおいて、2重曲がり管・同一平面が上流にある場合に必要な直管長は 10D 以上となります。単一曲がり管と同じ直管長となっています。2重曲がりであっても単一曲がり管と似た乱れ方となるためです (図 14, 15)。
図 14 : 2重曲がり管・同一平面の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流入流速: 5m/s, 配管寸法: 50A Sch40, 直管長: 上下流共に直管長 10 D)
図 15 : 2重曲がり管・同一平面による直管長ごとの流体乱れ (図 14 と同一条件)
3.5.2重曲がり管・非同一平面: 上流側 20D 以上・下流側 5D 以上
渦流量計 VY シリーズにおいて、2重曲がり管・非同一平面が上流にある場合に必要な直管長は 20D 以上となります。これまでの構造と異なり、旋回するような流れ(旋回流)が発生しているのがわかります (図 16)。この旋回流と呼ばれる流れは 10D では乱れが落ち着かず 15D 程度から安定しはじめるため、直管長は 20D 以上必要となってきます (図 17)。
図 16 : 2重曲がり管・非同一平面の流体シミュレーション結果
(流体種 :水, 流入流速: 5m/s, 配管寸法: 50A Sch40, 直管長: 上流直管長 10D,下流 20D)
図 17 : 2重曲がり管・非同一平面による直管長ごとの流体乱れ (図 16 と同一条件)
3.6. バルブ: 下流側 5D 以上
バルブは基本的に渦流量計の下流側に設置してください。バルブ構造はバルブ種ごとに異なる複雑なメカニカル形状となっており、必要な直管長はバルブ製品ごとに異なります。バルブ構造や開度によって流体の乱れが抑えられない可能性があるため、バルブは下流側とし 5D 以上とってください。やむを得ず上流側に設置する場合は、20D 以上取ることが好ましいです。
図 18 : バルブに必要な直管長 (一般仕様書より抜粋)
4. 直管長のTips
実際の配管には上記以外にも様々な配管構成が考えられます。いくつか例を示しますので、ご参考ください。
4.1. 直管長は 1本のストレート配管を推奨
まっすぐな管のフランジ接続部に内径段差やガスケットのはみだしなどが存在すると流れの乱れが発生源になってしまうため、直管長は1本のストレート配管で 10D 以上とすることを推奨します。3 mm 程度のわずかな段差でも乱れは発生します (図 19)
図 19 : 約 3 mmの内径段差があった場合の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流入流速: 5m/s, 配管寸法: 50A Sch40, 直管長: 上下流共に直管長 10D)
4.2. 渦流量計の接続口径2サイズ (2段) 以上の縮小 / 拡大管の場合
段数 × 必要直管長を取ることを推奨します。2段拡大管なら 10D × 2 = 20D 以上、3段縮小管なら 5D × 3 = 15D 以上となります。参考までに3段縮小管のシミュレーション結果を示します (図20)。このシミュレーションでは流れは 10D で安定していますが、多段階縮小管及び拡大管は特にプラントごとに形状が大きく異なります。そのため、流量測定値及び渦波形を見ながら判断ください。
図 20: 3段縮小管の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流出流速: 5m/s, 配管寸法: 縮小管上流側 150A Sch40, 縮小管下流側 50A Sch40, 直管長: 縮小管の上流側 5D, 下流側直管長 10D)
4.3. 縮小管 / 拡大管と曲がり管の組み合わせ
足し合わせた直管長を取ることを推奨します。例えば、拡大管 (10D 以上) + 単一曲がり管 (10D 以上) なら 20D 以上となります。また、拡大管と曲がり管に十分な直管長 ( 10D 以上) をとることを推奨します。
参考までに、拡大管と2重曲がり管・同一平面の間を取らないシミュレーション結果を示します (図 21)。旋回流の発生も見られ、拡大管のない2重曲がり管・同一平面の場合 (図 14) よりも流れの乱れが大きいことが分かります。このような場合も、流量測定値及び渦波形を見ながら判断ください。
図 21 : 拡大管と曲がり管が組み合わされた場合の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流出流速: 5m/s, 配管寸法: 拡大管上流側 40A Sch40, 曲がり管下流側 50A Sch40, 直管長:拡大管の上流側、曲がり管の下流側共に 10D)
4.4. 2重曲がり管どうしの距離
2重曲がり管どうしの距離は、距離があればあるほど流線が安定します。距離が 10D 以上ある場合には、旋回流の影響が低減されることが分かっています (図 22)。
図 22 : 2重曲がり管・非同一平面・曲がり管どうしの距離 10D の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流入流速: 5m/s, 配管寸法: 50A Sch40, 直管長: 上下流共に 10D)
4.5. 他の流量計に対して必要な直管長
バルブと同様に渦流量計の上流側に他の流量計を配置することは推奨しません。絞り流量計を模擬した流路の絞り形状がある場合のシミュレーション結果を「図 23」に示します。10D でも流れの乱れがみられ、20D でも乱れが収まっていないことがわかります (図 24)。
もし設置が必要な場合は、渦流量計 VY シリーズの下流に設置してください。その場合、渦流量計 VY シリーズからの直管長は 20D 以上取ることを推奨します。
図 23 : 流路の絞り形状がある場合の流体シミュレーション結果
(流体種: 水, 流入流速: 5m/s, 配管寸法: 50A Sch40, 直管長: 絞り形状の上流 10D, 下流 20D, 絞り比 0.4)
図 24 : 流路の絞り形状がある場合の直管長ごとの流体乱れ (図 23 と同一条件)
4.6. 直管長は長ければ長いほどよいのか?
十分に長ければ流れも安定する可能性が高くなります。一方で、必要な直管長があれば渦流量計の精度には変化はありません。そのため、必要な直管長以上であれば設置場所の都合にあわせていただくのが良いと考えます。一方で、流れが不安定になる要因が考えられる場合は、要因箇所から長めの直管長を取ることを推奨します。
5. まとめ
本記事では、渦流量計に直管長が必要な理由、渦流量計 VY シリーズにおける各種条件で必要となる直管長、直管長にまつわる情報を紹介しました。横河渦流量計の最新シリーズである渦流量計 VY シリーズは、横河独自のセンサー構造を踏襲し、流体乱れに強く短直管長を実現しています。
また、配管条件は実際には全く同じ条件はありません。流量測定の健全性を確認することが必要となる場合もあり、このような場合に渦流量計 VY シリーズでは、FieldMate 及び FSA130 により簡単に健全性を確認できる波形モニター機能を提供しています。関連製品のリンクから渦流量計 VY シリーズ及び FieldMate、 FSA130 の詳細をご確認ください。
表1: 渦流量計 VY シリーズに必要な直管長のまとめ
上流側の構造 | 縮小管 | 拡大管 | 曲がり管 | 2重曲がり管同一平面 | 2重曲がり管非同一平面 | 2段以上の縮小管 | 2段以上の拡大管 | 組合せ構造 | バルブや他流量計等 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
VY 上流に必要な直管長 | 5D | 10D | 10D | 10D | 20D | 5D × 絞り段数 | 10D × 絞り段数 | 参考値: 各構造に必要な直管長の足し算 | 上流側ではなく渦流量計下流側に設置してください | |
VY 下流に必要な直管長 | VY シリーズの構造によって決まるため、全て 5D |
本記事が渦流量計選定及び配管設計の一助となり、デジタル化やエネルギー管理に貢献できることを祈っています。
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