横河電機株式会社
横河ソリューションサービス株式会社

【防災科研/東大地震研/横河電機】国産のシリコン振動式の水圧計で深海での海面変動の観測に成功

2023年5月22日発表

国立研究開発法人防災科学技術研究所
国立大学法人東京大学 地震研究所
横河電機株式会社

 国立研究開発法人防災科学技術研究所(茨城県つくば市、理事長:寶 馨、 以下「防災科研」という。)、国立大学法人東京大学 地震研究所(東京都文京区、所長:古村 孝志、以下「東大地震研」という。)、横河電機株式会社(本社:東京都武蔵野市、代表取締役社長:奈良 寿、以下「横河電機」という。)は、千葉県房総半島沖で海底圧力観測のフィールド実証試験を実施し、水深3,436メートル(m)の海底に新型のシリコン振動式圧力センサ※1を搭載した水圧計を設置して、7ヘクトパスカル(hPa)の圧力変動を捉えることに成功しました。これは、7センチメートル(cm)の海面の高さ変化に相当します。頻度の低い事象である津波のデータを取得することは困難ですが、今回津波と同様の海面変化を捉えられたことにより、実際の津波発生時にも活躍することが見込まれます。この水圧計は、南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)に採用しており、地震に伴う津波による海底圧力変動を観測することによって、津波の確実な検知を可能にし、被害の低減に貢献していきます。

 N-netおよび今回開発した水圧計とそのフィールド実証試験の詳細は、2023年5月21日から26日まで開催される学会「日本地球惑星科学連合2023年大会:Japan Geoscience Union Meeting 2023」にて紹介されます。

図1 MEMS技術を用いたシリコン振動式圧力センサを搭載した水圧計(長さ261.5mm)出典 横河電機
図1 MEMS技術を用いたシリコン振動式圧力センサを搭載した水圧計(長さ261.5mm)出典 横河電機
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内容

 防災科研、東大地震研、横河電機は、地震発生時の大きな揺れの中でも正確なデータ取得が可能となるように振動や姿勢変化が計測に影響しない性能を目指し、MEMS技術※2を用いた横河電機のシリコン振動式圧力センサを搭載した水圧計の海底圧力観測としての有効性の評価を行ってきました。地震発生時に水圧計の姿勢変化によって観測に影響があることが知られていますが、本水圧計の姿勢変化による影響は従来のものより小さいことを確認しています。また、水深7,000メートル(m)に相当する70メガパスカル(MPa)を繰り返し加える精度評価試験では、繰り返し性※3±0.005% of 70MPa以下と優れた特性であることを確認しました。本水圧計は、MEMS技術を用いているため、個々の製品が同一の品質であることも利点として挙げられます。

 実際の海底環境での水圧計の性能を評価するためにフィールド実証試験を行いました。千葉県房総半島沖、水深3,436メートルの海底に水圧計を設置し、203日間分の有効な測定データを取得しました。発生頻度が低い津波の観測データを得ることは通常難しいことですが、本試験期間中の2022年1月15日に発生したトンガのフンガ・ハアパイ火山の噴火に伴う7センチメートル(cm)の海面変動を観測しました。また、データの解析から、1センチメートル (cm)を下回る海面の高さ変化に相当する圧力変化を観測できていることから、実際の津波を十分に観測できる性能を有していることが確認されました。この水圧計は、「国産」深海用高精度測器であり、海外の最先端測器と同程度の感度を有しています。

図2 フィールド実証試験実施箇所(千葉県房総半島沖)
図2 フィールド実証試験実施箇所(千葉県房総半島沖)
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図3 フィールド実証試験で用いられた、新型水圧計を搭載した自由落下自己浮上式海底圧力計
図3 フィールド実証試験で用いられた、新型水圧計を搭載した自由落下自己浮上式海底圧力計
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 地震津波観測網は地震や津波に関する防災情報の高度化や防災研究の発展に貢献する、防災、減災インフラの1つです。防災科研は、陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)を全国で運用しており、2019年からは、南海トラフ地震の想定震源域のうち観測網が設置されていない海域(高知県沖から日向灘)に、ケーブル式の海底地震・津波観測システムであるN-netの整備事業を進めています。N-netは、地震の揺れや津波をより早く直接検知して確実に陸上に伝えるためのネットワークシステムで、リアルタイムな観測を可能にします。その中で重要な役割を担う水圧計として今回の新型のシリコン振動式のものを採用しました。本水圧計については、数々の試験を通して信頼性の確保に努めており、南海トラフ巨大地震発生時に少しでも被害の軽減に貢献することを目指しています。

図4 南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)イメージ図
図4 南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)イメージ図
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 今後も、防災科研、東大地震研、横河電機は、災害に強い社会の実現に向けて防災科学技術の向上に努めていきます。

※1 シリコン振動式圧力センサ:
横河電機のシリコン振動式圧力センサは、単結晶シリコン製の振動子の共振周波数が圧力に依存して変化することを利用したセンシング方式を採用しており、低消費電力、小型、高感度、高い安定性、高耐圧という特長があります。その振動子は、シリコン半導体の製造技術を応用して清浄な真空空間に封じられているため、振動子に外部から混入した異物が付着し性能が落ちることがありません。また、水晶製の振動子を用いたセンサで生じるガスの脱離による性能の変化がなく、安定した計測を実現できます。さらに、シリコンウエハー上に一括形成できるため個々の製品が同一の品質をもっています。横河電機は、1991年から産業用差圧・圧力伝送器にこの技術を用いた圧力センサを搭載しています。

※2 MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術:
微小電子機械システム技術

※3 繰り返し性:
同一の測定手順、同一のオペレータ、同一の測定システム、同一の操作条件および同一の場所、ならびに短期間での同一又は類似の対象についての反復測定を含む一連の条件の下での測定の精密さを示す特性

以上

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