株式会社ワイ・ディ・シー(以下YDC) 代表取締役の田中剛氏(YDC 社長)とYOKOGAWAの未来共創イニシアチブ プロジェクトリーダーの玉木伸之の関係はすでに10年以上にわたる。田中氏は、YOKOGAWAのグループ会社だったYDCで、かつてYOKOGAWAの事業変革を推進していた時期があった。同じプロジェクトには関わらなかったが、人を通じて紹介され、すぐに二人は意気投合したという。それは、当時から、共に日本の未来を見据え、価値創造を目指し、次世代リーダー育成に情熱を傾けていたからであろう。
現在、田中氏は、未来共創パートナーとして、未来共創の産官学ラーニングコミュニティである「Green Phoenix Project(GPP)」にもメンバーとして積極的に参加し、本活動を支援している。
今回、そんな田中氏と、2024年からGPPに参加している高木身佳氏(YDCビジネスプロデューサー)を訪問し、未来共創イニシアチブの価値や魅力について、率直に語っていただいた。
※本記事ではYDCの代表ではなく、個人の見解として語っていただきました
※所属や役職は記事制作時(2024年12月)のものです
日本経済を支えているのは、製造業
YDCは、製造・物流に特化したITコンサルティング企業として、日本の製造業と深い関係を築いてきた。田中氏は、2022年の社長に就任早々、同社の企業パーパスを大胆に変更した。そのパーパスは、「日本の製造業との共創により、サステナブルな社会を実現する」。彼にとって重要な価値である「共創」という言葉も入っている。同氏は、なぜ日本の製造業にそのような強い想いを抱いているのだろうか。
「日本の輸出総額100兆円の8割は、製造業が稼ぎ出していて、日本経済に大きな影響をもたらしています。しかし、その製造業の利益率は一桁台と低い状態であり、日本の貿易赤字は解消されないままとなっています。製造業に変革を起こし、付加価値を高めなければ、日本の産業・経済は良くならない」と危機感を示した。
「製造業は外貨を稼ぐ重要な位置づけで、日本の経済を支えています。しかし、その製造業は、継続性を重視し、積極的な変革を行ってこなかった。僕は、付加価値を高める製造業の『変革』を、自分のミッションと捉えています」
「改善」から、「変革」へ
日本の製造業全体の発展が問われる中で、田中氏は、人がもつ変化への抵抗心、特に日本人はそれが強く、大きな妨げになっていると指摘する。
「日本人は、改善を好みますが、大きな変化は好みません。改善は変化ではあるが、大きな変化=変革ではありません。変革といわれると、8割の人は大反対するんですよね」
企業の中で変革を起こすのは、常に少数派である。多くの人が、自分の仕事を変えたいとは思わない現実の中で、真の変革を起こすには、変革の意義を理解することが重要である。
田中氏の最初のキャリアは、外資系IT企業のヒューレット・パッカード(現 ヒューレット・パッカード エンタープライズ )である。同社では、「成長曲線は、非連続なS字曲線である」と教えられた。
これは、新しい分野に挑戦する時、最初は苦労が多く、成長スピードが遅いが、徐々にスキルが身に付くと、やがて成長曲線が急速に上向く。しかし、同じことを繰り返したままだと成長スピードは落ちてくる。そこで、新しいS字曲線に乗り換えることで成長し続ける、という考えである。
「僕はHPで、『変化に適応し続ける人だけが勝ち残る』という哲学を学び、自分のDNAとなっています。企業も個人も、自分のやり方に固執するのではなく、成長し続けるためには、変化し続けることが大事なのです」と語った。
共創コミュニティは、若手のマインドセットに変化を与える
未来共創イニシアチブやGPPの活動の価値について語るにあたり、田中氏は、成長に重要な要素として、「機会」、「教育」、「マインドセット」の3つを挙げた。
「以前は、『成長=機会×教育』だと思っていたのですが、最も重要なのはマインドセットであると気づき、この式に加えました。仕事の現場では、社員に基礎的な事を教えて、プロジェクトにアサインする。これは教育と機会ですね。しかし、実行する人のマインドによって、その成長の角度が変わるのです。だからマインドセットは重要ですし、それを鍛えているのが、未来共創イニシアチブだと思っています」
「さらに、非営利で、いろいろな企業の人たちが協力している共創コミュニティだという点も、大きな価値です。しかもそれをリードしているのが若い人なんです。このように、若者に成長の機会を与えている点も素晴らしい」
また、長期的、未来志向についても触れている。
「短期的な視点だけだと、働くことがしんどくなる。でも長期的な視点で、未来を考える機会があると、自分の将来や夢を考えるチャンスとなり、モチベーションは上がっていくはず。若い時から、10年、20年先を見据えて、未来への思考を重ねていく訓練が大切なのです」
若者に成長の機会を与え、マインドセットを醸成する場として、YOKOGAWAの未来共創イニシアチブは重要な役割を果たしている。
グローバル企業の経営者は、長期志向
複数社で現場のリーダーとして事業推進を行ってきた経験から、本業を行いながら、未来を考えるプロジェクトを「兼務」することが丁度いいと、高木氏は話す。「現在」と「未来」の両輪のバランスが取れるというのだ。
田中氏も、R&D部門などが未来ばかり考えていることで、現実感がなくなることを危惧する。
日本の上場企業の社長任期の平均は4〜5年と短いが、米国では13年。田中氏はこうした事実を基に、次のような指摘をする。
「外資系企業は短期志向だ、という声もあるが、それは成果に対してであり、トップはみんな中長期志向を持っています。本気で成長させたいという長期プランを描ける経営者は、未来志向で積極的に投資していきます。日本は過去の売上や減価償却など、過去の積み上げで計画を立てている傾向がある」。
「本当は、超長期の視点から現在を逆算し、プランを立てる必要があるのです」
経営層の至上命題は、社員のエンゲージメント向上
田中氏は続けた。「これからの若者に、製造業に対して魅力を感じてもらうためには、企業が良い未来を描いて、発信していくことがすごく大事だと思う」。
「製造業は、3K (きつい、汚い、危険)で、機会があまり与えられないし、変化もしない、といったネガティブなイメージを持たれてしまっている。だから製造業にいきたいと思う若い人たちが、少ない。そんな中、企業が、地球の未来を真剣に考え、その担い手が若手であることを、いろんな場面で発信する。そうすると、『こんな会社が、製造業にもあるんだ』と希望につながるんです」と田中氏は力強く語る。
「そうやって、若い世代がリーダーシップを担い、未来を描いていくことで、会社に対するエンゲージメントが上がるのです。これは経営者からすると、とても大事なこと。なぜなら、会社に対するエンゲージメントが上がるということは、若い人財に自社の将来を担ってもらえる可能性が高まるからです」
長期的な視点で若い世代がリーダーシップをとる未来共創イニシアチブ。この活動は、「これからの製造業を魅力的な存在にする」重要なカギだと言える。
経営者と若い世代が一緒に学ぶコミュニティ
当初、GPPに参加した高木氏は、議論のレベルの高さに圧倒されたと話す。米国シリコンバレーで仕事をした経歴を持つ高木氏。渡米時に、スタンフォード大学が主催するプログラムに参加した経験もあったが、その経験をもってしても、さまざまな未来シナリオに対し議論する姿を見て、衝撃を受けたという。
「私はまだ勉強が足りないな、と感じました。だからこそ、このような多様な視点を持った人たちと話すことが大事であり、今までと違う世界が見えてくると思いました。GPPは真の多様性というか、年代も、会社も、(それぞれの)バックグラウンドが違う人たちが、一つのテーマについて話し合う。だから新しい発見が多いんです。経営層も参加していますが、私はどちらかというと、若い人との出会いが、学びにつながっています」
このような多様な人との出会い、学びの場があるからこそ、GPPに継続的に参加しているという。人とつながることの価値について、高木氏はどう感じているのだろうか。「私は、人とのつながりのお陰で、企業へのご縁をいただき、ここまで来れました。それは、間違いなく大きな価値であり、武器だと思います。GPPに参加したり、玉木さんからご紹介いただいたりして、今年は100人以上の方と名刺交換をし、意見を交わすことができました。今までの人生の中で1回も出会ったことがないようなフィールドで活躍される方々もいらっしゃいました。」
田中氏もそれに付け加えた。「GPPの共同発起人である川本裕子さん(人事院 総裁)に、『40歳を越えたら、年下に学びなさい』と言われ、その通りだと思いました。未来を考える時に、若い人の発想とか考え方を知らずに、良い判断などできないからです」。
左から:高畑 圭輔(YOKOGAWA)、高木 身佳氏(YDC)、玉木 伸之(YOKOGAWA), 田中 剛氏(YDC)、清水 香織(YOKOGAWA)
次の世代のために何か力になりたいと考えるトップは多い。田中氏、高木氏は、そんな彼らを「Giver(ギバー)」と呼び、その存在の価値を感じている。
「Give and Takeにおいて、Taker(テイカー)は、確かに失敗はしない。でも、とてつもない成功もしないんです。一方、Giverは、他人からもGiveされる。つまり、大きな成功をしようと思ったら、Giverの精神が大事なんです」と語る田中氏。
GPPに参加する人たちは、このGiverの精神で参加している人が多い、と話す同氏。一方で、若い人たちからもGiveをたくさんもらっていると続ける。多様な世代との出会いは、多様な価値観との出会いにつながっている。
未来共創イニシアチブやGPPを通じて、共に未来を考え、多様な人と対話を重ねる経験をすることは、一人一人の視野を広げることにつながる。それは、個の成長、企業の成長、ひいては日本や世界の成長へとつながっていくだろう。
田中 剛
株式会社ワイ・ディ・シー
代表取締役社長 兼 CHRO
趣味:キャンプ、剣道、料理
高木 身佳
株式会社ワイ・ディ・シー
ビジネスプロデューサー
『Collaborative DX』コミュニティディレクター
趣味:旅行、スポーツ観戦、フラダンス
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インタビュー
「未来共創イニシアチブ」に関わる社内外の関係者が、対話を通じ、多様な視点で語る活動の価値や意義
活動概要
シナリオプランニングを活用した次世代リーダー育成と、境界を超えた共創ネットワーク構築を目的とした活動の紹介
活動への想い
「正解のない時代」に生まれた、活動発足の背景や志
未来シナリオ
未来を担う若手社員たちが、シナリオプランニングと共創的な対話で描いた「未来シナリオ」
シナリオアンバサダー
YOKOGAWAの各部門から選ばれたミレニアル世代中心のシナリオアンバサダー紹介と成長や学び
未来共創ネットワーク
YOKOGAWAグループ内外のサポーターやパートナー、個社と緩く繋がり、産官学連携で築くネットワーク
Sponsor Article
米国発テックカルチャー・メディア『WIRED』に掲載された、「未来共創イニシアチブ」の英文記事
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