金沢市郊外にある、山々に囲まれた美しい美術館のような建物。このYOKOGAWA金沢事業所に、ライフ事業の開発拠点の一つがある。ライフ事業は、医薬品・医療・食品分野の研究開発から量産、物流・サービスに至るまでバリューチェーン全体を事業領域とする。「Well-being(すべての人の豊かな生活)の実現」に貢献するため、2018年に設立された新しい事業である。
ここにも、未来共創イニシアチブのメンバーがいる。製品開発を担当する坂下浩史と、東京本社でグローバルマーケティングを担当する二木佐知子だ。彼らは、共に未来共創イニシアチブの前身、「Project Lotus」時代から、シナリオプランニングに関わっている。
※本記事ではYOKOGAWAの代表ではなく、個人の見解として語っていただきました
※所属や役職は記事制作時(2024年12月)のものです
今回は、「未来共創イニシアチブ」からの学び、ライフ事業におけるシナリオプランニングのプロジェクト経験、そして、彼らから見た未来共創イニシアチブの活動の価値について、率直に語ってもらった。
「Project Lotus」参加への大きな期待
坂下は2008年に入社以降、ハードウェアの制御ソフトや画像解析ソフトの開発などの経験を経て、現在は製品開発の課長を務めている。社内でいち早くAI技術に携わり、その技術を自社製品に適応させたAIのスペシャリストだ。
2019年、Project Lotusを発足させたプロジェクトリーダーの玉木が、ライフ事業センター長に、「変わり者を紹介してほしい」と要請。センター長からProject Lotusへの参加を打診されたのが坂下だった。坂下は、当時の心境を語る。「嘘偽りなく、本当にワクワクしかありませんでした」。
プロジェクト開始と同時に、20冊近い課題図書が与えられ、多くのプロジェクト参加者たちは顔をこわばらせ、困惑していた。しかし、読書好きの坂下は感じた。「これこそ、自分が好きな分野で、リードできるプロジェクトだ」。そして、大量の本の郵送もあえて断り、東京から金沢までの帰りの新幹線の中で、早速読み始めた。「玉木さんが選んだ本は、技術の進化のみでなく、社会の変化や、経済や政治、地政学など、多岐の分野にわたっていて、興味深いものばかりでした」。
もともと仕事へのモチベーションが高かった坂下だが、プロジェクトへの参加によって、“変わり者”としての個性を存分に発揮し、大きく飛躍するきっかけを掴んだ。
AIスペシャリストだからこそ感じた、「未来は不確実」という確信
技術者として、AIやDeep Learningなどのデジタル技術に深い知見がある坂下は、未来シナリオ作成の議論において、積極的に発言した。「私が製品に取り込んだAIは、機械学習や画像処理のDeep Learningが中心でした。その視点で、AIの限界みたいなところを皆さんと共有したりしていました。ところが、2022年ごろからの生成AIの爆発的普及を目の当たりにし、大きな衝撃を受けたんです。皆さんも驚いたと思いますが、シナリオ作成を経験した自分としては、「未来は不確実である」ということを確信しました」。
このような経験を通して、「シナリオプランニングをやっていて良かった」と断言する坂下。それは、未来は不確実であるという前提で、物事を俯瞰することの重要性を深く理解できたからだ。
「イノベーションを生み出すためには、自分の働く現場においても、世の中の動きを捉え挑戦する攻める部分と、既存品を守る部分を考えて行動する必要があります。自分の学びを止めてはいけないのです」
坂下は続ける。「シナリオプランニングの経験を通して、会社が掲げるサステナビリティ目標<Three Goals>にますます共感できたし、自分の会社を心から好きになりました。この体験を、他の人たちにも伝えていくことが大事だと思いました」。
本業で実践:ライフ事業部門内に一石を投じる
Project Lotusの終了後、ライフ事業部門のトップからの要望を受け、坂下は、ファシリテーターとして、自分が所属するライフ事業部門内でシナリオプランニングを行うことを決意した。上司を説得し、12人の仲間と共に、食品・医療・バイオにフォーカスした、2040年の未来シナリオを作成した。
シナリオを作成するプロセスで、他のメンバーたちも、人とのつながりを広げ、成長していった。思考や発言内容が変わり、情報の捉え方も変化していった。
坂下は言う。「参加したメンバーたちの視座が、明らかに高くなっていくことを実感しました。使う言葉のレベルも上がりました。超長期的視点での思考を促す仕組みができるのは、素晴らしいことだと思います。それはメンバーも感じたようです」。
こうして、ライフ事業部門内にも、坂下がProject Lotusや未来共創イニシアチブで感じた喜びを広げることができた。また、人を育てる喜びも経験できた。社内のトップマネジメントやミドルマネジメントに一石を投じ、社内外に活動のプレゼンスを示すこともできた。
「僕、けっこう熱量って大事だなと思うんです。楽しい、と思えることがすごく大事で、その熱量が、周りの人に伝染していくんです」
グラフィックレコーディングで発揮された俯瞰力
一方、二木は、ライフ事業のマーケティング部門に所属し、ミドルマネージャーとしてビジョン推進やプロモーション活動を担当している。2019年、YOKOGAWAに入社後まもなく、Project Lotusに参加した。「グラフィックレコーディング*(通称グラレコ)をシナリオプランニングに導入したい」と考えたプロジェクトリーダーの玉木が、彼女の上司に相談した結果、二木に白羽の矢が立った。
*グラフィックレコーディング:議論した内容を、絵や図などのグラフィックで可視化し、創造的な議論を育むファシリテーションの手法
「どちらかというと、絵は苦手です。ただ整理が大好きで、文章をまとめたり抽象化したりすることは得意な方でした。特徴を捉えて表現できる能力が買われたようですね」と二木は振り返る。
しかし、実は二木にはグラフィックレコーディングや絵画の経験はなかった。「上司に、『面白そうだし、二木さんならできるからやってごらん』とグラレコにアサインされ、ついつい『イエス』と言ってしまいました(笑)。グラレコについては本を読んだり、講座を何度か受講したりしました」と明かす。
自分の強みを発見
それでも、二木のグラレコにおける構造化力、俯瞰力、抽象化力について、玉木や他のシナリオアンバサダーたちは舌を巻く。「二木さんは言語や絵を通じた表現力や、アブダクションという、結果から原因を推測する思考力が高い。彼女のグラレコを通じて、議論に偏りや抜け・漏れがあったと気づくこともあります。しかも海外の専門家との議論では、英語でやりとりしながら、グラレコを描くんです」。
二木は、中学・高校はオランダで学び、結婚後はインド、シンガポールで過ごした経験がある。しかしながら、彼女は、海外の経験を必ずしもポジティブにはとらえていなかった。「多様な視点を得られる貴重な経験だったことに気づいていなかったのだと思います」。このプロジェクトに参加した当初も、自分の絵がどのような価値をもたらしているのかさっぱり分からなかったという。
しかし、実際にプロジェクトに参加することで、自分が気づかなかった自身の国際経験や、論理的思考、表現力などが、強みとして発揮された。
「当初は戸惑いながらの作業でしたが、続けているうちに、自分の能力がチームに貢献していると実感でき、嬉しかった」と話す二木。プロジェクトを通して、自分の中に蓄積されていた宝を見つけることができた。
志のある者を育てる
未来共創イニシアチブの魅力について、坂下と二木が口をそろえて強調するのは、活動を通じて得られる人とのつながりや仲間だという。「シナリオ作りを通じて、ライフ事業部門内にも仲間ができました。『自分以外にも情熱を持った人たちが数多くこの会社にいるんだ』と実感できました」と、坂下は振り返る。
二木が続ける。「未来共創イニシアチブには、独特のCode of Conduct(組織の中で大切にする価値観や指針)があり、そこから生まれる文化があります。例えば、『議論しよう』と言ってみたり、役職や部署にかかわらず話を聞きに行ったり、という行動が許される環境なのです。そこでは、誰もが自分のスキルや才能を活かして、貢献することができる。心理的安全性が担保されていて、自分たちのポテンシャルを開放させてくれる環境が、良かったのだと思います」。
坂下は語る。「未来共創イニシアチブの仲間とは、今でもつながっています。人が集まり、実践を通じて学び、会社の未来を考える。そういった意味では、未来共創イニシアチブは、『志がある人が集まり、YOKOGAWAの未来を自分の言葉で熱く語れる人が育つところ』、なのではないでしょうか」。
そして、続けた。「僕たちは、この熱量を止めちゃいけないんです」。
YOKOGAWAにとって、未来共創イニシアチブという場は、有志が集まり、つながりを通じて成長し、企業や社会に貢献していくプラットフォームである。これからも、坂下や二木たちの熱量は、社内外に広がり、その輪は広がっていくのだろう。
左から:玉木 伸之、坂下 浩史、二木 佐知子、茂木 豪介(YOKOGAWA)
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坂下 浩史
未来共創イニシアチブ シナリオアンバサダー
専門分野:製品開発、ソフトウェア開発
趣味:旅行、登山
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二木 佐知子
未来共創イニシアチブ シナリオアンバサダー
専門分野:グローバルマーケティング
趣味:マンガを読むこと
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インタビュー
「未来共創イニシアチブ」に関わる社内外の関係者が、対話を通じ、多様な視点で語る活動の価値や意義
活動概要
シナリオプランニングを活用した次世代リーダー育成と、境界を超えた共創ネットワーク構築を目的とした活動の紹介
活動への想い
「正解のない時代」に生まれた、活動発足の背景や志
未来シナリオ
未来を担う若手社員たちが、シナリオプランニングと共創的な対話で描いた「未来シナリオ」
シナリオアンバサダー
YOKOGAWAの各部門から選ばれたミレニアル世代中心のシナリオアンバサダー紹介と成長や学び
未来共創ネットワーク
YOKOGAWAグループ内外のサポーターやパートナー、個社と緩く繋がり、産官学連携で築くネットワーク
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米国発テックカルチャー・メディア『WIRED』に掲載された、「未来共創イニシアチブ」の英文記事
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