真に豊かに生きる循環型社会に向けた未来へのシナリオ
モノを大量につくり、使い、あとは捨てるのみという直線型社会から、モノをできる限り捨てず、捨てられたモノはできるだけ資源として使っていく循環型社会へ。いま、世界がこの社会スタイルへの移行に取り組んでいます。地球環境保護への関心の高まりを背景に、環境に優しい製品やサービスを選択、購入する消費者も増えてきています。しかし、毎年世界で流通するすべての鉱物、化石燃料、金属およびバイオマスのうち、現在循環しているのはわずか8.6%であるという報告*1もあり、限られた資源で人々が真に豊かに生きる循環型社会に向けて、さらなる取り組みが求められています。
循環の輪をより大きなものに
― 本格的な循環型社会を目指して
循環型社会とは、環境への負荷を減らすため、自然界から得る資源をできるだけ少なく、有効に使い、廃棄されるモノを最小限に抑える社会のあり方を指します。大量生産・大量消費が私たちの生活を豊かにしてきた一方で、資源の枯渇問題や廃棄物による自然環境破壊や地球温暖化などの弊害が、世界の至るところで顕在化しており、循環型社会を目指す取り組みが進んでいます。
2022年3月、ケニアのナイロビで開かれた国連環境総会(UNEA)で、175か国がプラスチック汚染をなくすための国際条約に向けた決議を採択しました。実現すれば法的拘束力を持つ画期的な条約となります。声明では、プラスチックの使用を減らすことの重要性を伝え、循環型社会への移行で2040年までに海に流れ込むプラスチックの量を80%以上削減できる、として社会を変革することの意義を伝えています。
循環型社会の実現に向けて考えるべきことは多岐にわたります。プラスチックに限らず、リユース(再使用)やリサイクル(再生利用)の対象となるものを増やしていくことが必要です。さらに大きな観点では、石油・金属などの枯渇性資源に由来するモノは人の手によりリユースやリサイクルしていくだけでなく、自然界の微生物たちの分解作用によって資源再生など生物的な資源循環にまで到達することが大きな課題です。まだ循環の中に入っていない業界・人・モノを循環の中に入れて輪を大きくし、かつ循環の中で捨てられるモノをできるだけ少なくしていく必要があります。
「『取って、作って、使って、捨てる』というアプローチを続けていては、私たちの地球と私たちの経済は存続できません。 貴重な資源を保持し、その中にあるすべての経済的価値を十分に活用する必要があります」
Frans Timmermans, First Vice-President of European Commission. “Closing the Loop: Commission Adopts Ambitious New Circular Economy Package to Boost Competitiveness, Create Jobs and Generate Sustainable Growth.” Press release by the European Union, December 15, 2015.
「資源循環と効率化」へ、多面的に取り組む
― YOKOGAWAが描く未来へのシナリオ
「資源循環と効率化(Circular economy)」を、YOKOGAWAは2050年に向けたサステナビリティ目標「Three goals」の一つに掲げています。目指すのは、さまざまな資源が無駄なく循環し、資産が有効に活用されるような社会の実現です。すべての人に望ましく、YOKOGAWAが実現したいと考える循環型社会の世界観を、お客様やパートナー企業と分かち合い、共創を進めていきたいと考えています。このサステナビリティ目標に向け、すでに実践段階にある取り組みと今後貢献できることを整理した上で、YOKOGAWAは実現したい世界観を、いわば未来へのシナリオとして描いています。
これまでもYOKOGAWAは、循環型社会の実現に向けて、再生水、再生可能燃料、二酸化炭素といった物質について、有効利用への道をひらくことに貢献してきました。米国では、安全に飲める再生水を効率的につくるために、下水処理施設の施設運転を最適化する実証試験を成功させました。また、再生可能燃料プラントに制御関連の技術や設備機器、サービスを提供しています。日本では、コンビナートにおける複数の事業所のエネルギーバランスや排出される二酸化炭素の回収と再利用について現状調査を行い、二酸化炭素の有効利用につなげるための産業間連携調査を進めています。
さらにYOKOGAWAは、未来へのシナリオにおいて、さらに多くのモノを循環の輪に入れていく筋道を描いています。そのために必要になるのが可視化です。YOKOGAWAはコアコンピタンスである「測る力」により、これまで定量的な評価がしづらかったものの可視化に挑んでおり、対象として次の3つを挙げています。
1つ目は、劣化度合いの可視化です。これによりモノや資源の利用期間を延ばしたり、リユース品に高い性能を発揮させた使用が可能になります。
例えば、蓄電池です。蓄電池を構成する個々のセルの劣化状態に差が生じて、とりわけ高い安全性が求められる車載用途としては役目を終えた蓄電池を、いったんセル単位に分解してから再構築し、定置用蓄電池などに利用する場合があります。その際にはセルのバランスをそろえることが再構築後の蓄電池の電力容量を引き上げる鍵となります。
蓄電池の電池残量は従来、「あと何%」のように相対的に表示されるものでした。これに対してYOKOGAWAは、蓄電池の開発・製造における計測ニーズに対応してきた経験を生かし、「あと何ワット時」と定量的に把握できる劣化診断技術を開発しており、セルのバランスをそろえて再構築ができるようにしていきます。再構築した蓄電池の運用中も定期的に劣化の度合いを診断することで、安全な再利用に貢献していきます。
2つ目は、再資源化への過程の可視化です。その1つに、ケミカルリサイクルと呼ばれる、原料を化学的に分解してリサイクルする手法における化学反応プロセスの可視化があります。これをプラントの制御に応用することにより、廃プラスチックなどの使用済みのモノを再資源化できる比率を高められるようになります。
ケミカルリサイクルは、分子レベルに分解することで、異物や汚れに関わらず再資源化できるリサイクル手法として注目を集めています。YOKOGAWAは、分解される化学反応である解重合反応の仕組みに着目し、これを可視化して現状のケミカルリサイクルプロセスをより優れたものにしようとしています。解重合反応がどう進んでいくかを高い精度で予測できるプロセスモデルを開発すべく研究を進めています。このプロセスモデルをプラントの制御に応用することで、ケミカルリサイクルプロセスの省エネルギー化や、歩留まりの改善、再生資源化率の向上などに貢献していきます。
3つ目は、再生物の起源の可視化です。特に材料の起源が再生資源であるものに着目しており、その一例として、微生物を使ったメタネーションにおけるプロセスや培養環境の可視化があります。これによって排出される二酸化炭素の有効活用ができるようになります。
水素と二酸化炭素を化学反応させ、燃料となるメタンを生成するメタネーションの技術開発が進んでいます。メタンを燃料として使用すると二酸化炭素が出ますが、再度メタネーションに取り込めることで、二酸化炭素の再利用法として期待が高まっています。
従来のメタネーションでは、水素と二酸化炭素を化学触媒を使って反応させメタンを合成します。このとき熱源を必要とするので、その分エネルギーを消費します。これに対しYOKOGAWAは、メタン生成菌という微生物に着目し、微生物を使って水素と二酸化炭素を反応させて、メタンをつくる技術を大学と研究しています。YOKOGAWAのレーザー分析技術でメタン生成の経時変化を測定したり、pHセンサなどでメタン生成菌の培養環境を測定したりしています。エネルギー消費の少ないメタネーションの実現で、排出される二酸化炭素の有効活用に貢献していきます。
このようにYOKOGAWAは、本格的な循環型社会の実現に向けてさまざまな取り組みを進めています。しかしながら、循環の輪を大きくしていくことは単独では困難であるのは言うまでもありません。これまでYOKOGAWAは、お客様の製造現場で価値ある情報を結び付けることで「つなぐ力」を培ってきました。「測る力」による可視化を通じて社会にもたらされる評価指標は、組織や企業、産業を結び付けるきっかけとなりうるものです。YOKOGAWAは、測る力とつなぐ力を発揮して、バリューチェーンを構成する人・組織・企業をつなぎ、本格的な循環型社会に向けて歩みを進めていきます。
参考文献
*1: Circle Economy. “The Circularity Gap Report 2022,” January 2022. https://www.circularity-gap.world/2022.