Circular economy Net-zero emissions

循環型社会のためのクリーンテクノロジー、
バイオマスマテリアル

  • バイオマスマテリアル

2021年11月2日、英国グラスゴーで開催されたCOP26において、日本を含む42か国は「ブレイクスルー・アジェンダ」への加盟を発表しました。ここで示されたのが、クリーンテクノロジーと持続可能なソリューションの開発と展開が、すべての人にとって安価で利用しやすく、魅力的な選択肢になるようにという目標です。持続可能な世界を目指して、各国政府や企業が気候変動対策について連携し、クリーンテクノロジーの開発や展開を飛躍的に加速させる道筋が示されました。

循環型社会に求められるバイオマスマテリアル

― 地球環境への影響を最小限に抑えるバイオ素材

YOKOGAWAはクリーンテクノロジーを、気候変動や地球環境問題を解決するテクノロジーとだけとらえるのではなく、「市場経済ドリブンの世界規模の課題に対する解決策を提供しながら、投資家及びお客様に競争力のある収益を提供する新技術および関連するビジネスモデル」ととらえています。エネルギーや電力分野にとどまらず、交通、ロジスティクスや農業、食料など多様な分野で展開されるものとして、その社会的価値を重視し、クリーンテクノロジーによる価値創出に取り組んでいます。

今後、気候変動の影響が深刻化することが懸念される中で、新しいエネルギー経済に移行するためには、クリーンテクノロジーが担う役割が大きくなります。クリーンテクノロジーにはさまざまな領域がある中で、地球環境への影響を最小限に抑える取り組みとして脚光を浴びているもののひとつが、生物由来の素材であるバイオマスマテリアルの活用です。

バイオマスとは、その名のとおり、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉で、再生可能な生物由来の有機性資源の総称です。バイオマスも燃焼させれば二酸化炭素(CO₂)が排出されますが、成長過程で大気中から光合成によりCO₂を吸収しているため、カーボンニュートラルであると位置付けられ、地球温暖化対策に有効とされています。脱炭素・循環型社会の実現のためには、燃料としてのバイオマスの活用に加え、素材としての活用など、幅広い形での普及が必要不可欠です。近年、バイオマスマテリアルへの関心は高まりを見せており、身近なところではペットボトルや包装フィルム、テキスタイルへの応用が進んでいます。

YOKOGAWAは、これまでも再生可能エネルギーや浄水場や海水淡水化プラントなど水資源にかかわるさまざまなプロジェクトに携わり、お客様の事業活動における課題解決に対して貢献してきました。そして再生可能エネルギーと水に加え、バイオマスマテリアル領域にも着目し、2018年からバイオ関連企業への出資や提携を実施してきました。2021年には横河バイオフロンティアを設立し、従来手掛けてきた開発・生産の支援を超えて、バイオマスマテリアルの開発・生産そのものを自社で行っていくことで、バイオマスマテリアル普及に向けた取り組みを強化しています。

バイオマスマテリアルの材料

バイオマスマテリアル普及拡大のカギ

― 期待される夢の新素材「セルロースナノファイバー」の可能性

バイオマスマテリアルの普及拡大の一つの解決策として考えられているのが、「夢の新素材」とも呼ばれるセルロースナノファイバー(CNF)です。セルロースとは地球上で最も大量に存在する天然高分子*1であり、植物の細胞壁の主成分で、木質材料から繊維を取り出して作られたナノサイズ(100万分の1= 0.000001ミリメートル)の繊維状物質がCNFです。

CNFの大きな特徴は、生物由来の素材で生分解性があり、鋼鉄の5倍の強度をもちながら質量はその5分の1に過ぎないという点です。この高強度・軽量の特性から補強材、添加剤として活用することで、強度が高く軽量の材料を作る研究が進んでいます。また、熱を加えても大きさや形が変わらず電子部品の基盤材料や外装への使用に適していること、光を散乱しない透明な加工が可能であることから幅広い分野での活用が期待されています。

CNFの活用は環境面でも有用です。例えば自動車部材の軽量化による燃費の改善や、住宅建材や家電の高断熱化によるエネルギー消費減は地球温暖化の抑制につながりますし、森林資源活用による循環型社会実現への貢献も示されています。鋼鉄よりも軽くて強い、そして循環型社会に貢献する「夢の新素材」が持つ可能性は計り知れません。

しかし、「夢」を現実のものにするにはいくつかのハードルがあります。セルロースナノファイバーは木材などから抽出し、繊維を細かくほぐして作られますが、抽出や解繊には専門技術が必要となることに加え、生産にはエネルギーとコストを要します。また、従来の化石資源由来の材料と比較すると、バイオマス原材料に特有のばらつきや特殊性があり、いかに効率的に生産するかが課題となっているのです。

*1 高分子:分子量が大きな分子のこと。人工的に高分子化された合成高分子に対し、自然界に存在する高分子が天然高分子。

生活とバイオマスマテリアル

YOKOGAWAの技術が貢献できること

― 共創を通じてバイオマスマテリアルの利用を拡大

数あるCNFの中でも、YOKOGAWAが着目し、独自の研究開発を進めてきたのが硫酸エステル化セルロースナノファイバー「S-CNF™」です。これは、YOKOGAWAが独自の化学製法を用いた生産技術で開発したCNFです。乾燥粉末の状態であるため、従来のゲル状のCNFと比べて体積と重量はおよそ100分の1に縮小されます。粉末状態での保管やトラック輸送が可能になり、従来のタンク保管やタンク輸送よりも環境負荷が大幅に削減されます。

また、「S-CNF」を水に溶かした液体には高いチキソトロピー性があります。チキソトロピーとは、「静置すると高い粘度を示すが、撹拌などで流動化すると極端に粘度が低下する」という性質です。例えば、ケチャップは瓶をさかさまにしただけではすぐに出てきませんが、瓶を振ることで出てきます。CNFから作り出した粘度調整剤を使用して、インクがかすれにくいボールペンが開発された例もあり、「S-CNF」もさまざまな用途に応用できると考えられます。また、「S-CNF」をフィルム状にした乾燥膜は透明で平滑性が高く、酸素ガスを遮断するバリア性を有していることから、酸化を防ぎ鮮度を保つジュースやスープなどのパッケージやコーティング剤への応用も期待されます。高機能なナノセルロース素材として、「S-CNF」は今後さまざまな用途に利用され、新たな価値を生み出していくことでしょう。

YOKOGAWAは、計測と制御の技術で素材産業のお客様の企業活動を長年サポートしてきた実績を生かし、化学素材生産分野への一歩を踏み出しました。今後は、お客様やパートナー企業との共創を通じて新たな用途を見出し、CNFの普及を促進し、市場を拡大していくことを目指します。

未来の地球のために、クリーンテクノロジーの普及に向けて、燃料や素材などさまざまな形で私たちの生活にバイオマスマテリアルの利用が広がっていくことでしょう。YOKOGAWAは持続可能な社会を目指し、バイオマスマテリアルの普及拡大に向けて企業や業界、国境を超えた共創を重ねていきます。こうした取り組みこそが、YOKOGAWAが書き進める「地球の物語のつづき」の新たな一章になっていくのです。


S-CNFは横河電機株式会社の商標です。