共創による循環型社会の実現
季節外れの気候、立て続けに襲来する大型の台風、ゲリラ豪雨による洪水の多発――これらの原因と言われる地球の気候変動は、過去数年の間に大きく進行しています。2018年10月8日に国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今後12年間で世界の平均気温の上昇を1.5°Cに抑えられなければ、地球のエコシステムは取り返しのつかないダメージを受ける可能性があると報告しました。極めて現実的な課題として気候変動への危機意識が高まる中で、今求められるのは目に見えるかたちでの具体的な対策です。
地球環境の破壊はなぜ起こるのか
― 生産性をひたすら追求する経済モデルは、環境に深刻な影響をもたらしています。すぐにでも対策を講じなければ、取り返しがつかなくなる恐れがあります。
1870年代、「このまま人口増加が進めば、食糧の需要が生産量を超える」という、当時浸透していたマルサス主義の経済観を刷新したのが、第二次産業革命の到来による驚異的な技術革新でした。機械による大量生産が実現したのは、人口が増えれば増えるほど経済が成長するという、リニアエコノミーモデルの発展です。そして生産性をひたすら追求したこの経済モデルが生み出したのが、「生産」「消費」「廃棄」というサイクルでした。これによって、個人所得の大幅な増加や、生活の質的な向上をもたらしましたが、代償として世界規模の環境破壊が引き起こされたのです。
「生産」「消費」「廃棄」のサイクルは、大気中の二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)などのガスの量を増加させる一因となります。これが地球の温度を一定に保つための自然の仕組みである「温室効果」の進行に拍車をかけました。その結果、世界の平均気温が上昇し、異常気象の原因となったのです。長期間の熱波や異常な降雨、大型の激しい嵐が、異常な頻度で発生するのはこのためです。
他方で、環境破壊が悪化の一途をたどる中、環境保全に向けた対策も同時に始まっています。こうした取り組みで注目を集めているのが、北海道下川町です。北海道の最北端から約200キロメートルのところに位置するこの町は、世界的なスキージャンプ選手である葛西紀明氏の出身地としても知られています。人口はわすが3,400人ほどですが、高齢化が進行しており、住民のおよそ40%が65歳を超えています。
下川町の大きな特徴の一つは、町の面積の約90%を森林が占めていることです。これを生かし、下川町では、森林・林業の振興と、森林バイオマスを使用したエネルギー供給による、資源循環型社会の実現を目指しています。
気候変動に伴うリスクは極めて現実的な問題であり、これらのリスクに対する危機意識が世界中で急速に高まっています。
森林は、適切に管理しなければ、自然災害の発生によって大きなダメージを受けます。豪雨や地震が発生すれば、大規模な土砂崩れが起きる可能性があります。自然災害や熱波による干ばつが起きれば、CO2の吸収率に影響を及ぼし、大気中に排出された炭素が地表からの赤外放射を吸収することで、やがて地球温暖化の一因となります。
下川町は、伐採・育林・植林・利用までを含む、森林管理サイクルを考案・確立しました。ここでは、町の重要な資源である木材(主にトドマツとカラマツ)が、無駄なく活用されています。木材は、製材やおがくずなどの副産物、高付加価値なエッセンシャルオイルへの加工などに利用され、残りはすべて、専用の施設で木質バイオマスボイラーの燃料として精製され供給されます。
下川町が保有する木質バイオマスボイラーは、公共の温泉、保育園、高齢者介護施設等に熱エネルギーを供給しています。その自給率は公共施設の熱需要量全体の約70%、民間製材工場の木材乾燥用の利用を含めると町全体でも約50%にまで達しています。
しかし、解決すべき課題はまだ残っています。バイオマス熱供給を運用するフレームワークは日本国内でまだ確立されていません。こうした状況にありながらも、下川町がパイオニアとして立ち上がったことで、設備運用における多くの課題が明らかになってきています。木材という限りある資源を燃料に使用する以上、森林バイオマスの熱供給には効率的な運用が不可欠です。
長期的なサステナビリティを実現するために
― YOKOGAWAは、計測、制御およびIoT(Internet of Things)技術で培ったノウハウを活かし、世界で最も切迫している問題の解決に取り組みます。
世界をリードする日本のものづくり業に携わってきたYOKOGAWAは、省エネにおいても技術と経験の蓄積があります。再生可能エネルギーは、誕生したばかりの技術ですが、YOKOGAWAの持つ計測、制御およびIoT技術を統合する能力を活用することで、さまざまな課題の解決に貢献することが可能です。
下川町の森林バイオマス事業において、YOKOGAWAは熱供給システムのフレームワーク開発を支援しています。彼らは小規模かつ共同事業であるバイオマス熱供給システムにおいて、運転効率を向上させ、安定した熱エネルギーの供給を求めています。現時点で合計11台のバイオマス熱供給ボイラーが下川町で稼働していますが、このノウハウをいずれ全国の類似設備にも応用していく予定です。
下川町内にある「一の橋バイオビレッジ」は、急速に高齢化が進む人口100人ほどの小規模集落です。住民の生活の質を向上させるためのソリューションが必要とされていたことから、この共同事業によるサービスの提供が始まりました。この地区で確立されたバイオマス熱供給システムを管理・分析するために、システムのあらゆる部分から情報を収集・処理するYOKOGAWAのエッジコントローラ、e-RT3を導入。監視制御やデータ取得で高い拡張性を持つソフトウエアFast/Toolsと連携させて、リアルタイムの高度なリモート監視が実現しています。
下川町は年間の寒暖差が激しく、最高気温は30°C、最低気温は-30°Cになります。また、一部の地域では、熱供給設備と利用者の住居が離れているため、これを埋め合わせようとして、熱源が過剰供給になる傾向があります。過去の需要データや気象情報の分析により、将来的な需要予測が可能になりますが、これにYOKOGAWAの制御技術を組み合わせることで、より効率的な運転が可能になります。
バイオマス燃料は無限ではないため、需要と供給のバランスを維持することが不可欠です。e-RT3とFast/Toolsを組み込んだYOKOGAWAの地域エネルギーマネジメントシステム(CEMS)は、近い将来、一の橋バイオビレッジのその日の天気予報と熱の需要を予測し、運転計画を策定することで、今後の正確な運転にも貢献します。
「YOKOGAWAは、産業や社会インフラなどの分野において、プロセスの高速化、作業負担の軽減、省エネ化の取り組みを推進し、プラントの安定性、効率、安全性を改善するソリューションを提供していきます」
西島剛志
横河電機 代表取締役社長
運用する中で得られたデータをモデル化できる機能は、従来のフィードバック制御を補完するものとして、最適な需要予測を行うためのアルゴリズム解析に貢献します。これにより、需給バランスを適切に管理するのに大変役立ちます。
下川町で導入されたCEMSが果たす機能は、年間データの収集および視覚化に限られていますが、これまでの試験を通して、貴重なデータが蓄積されています。運転データを管理して、改修が必要な領域の特定に役立てることで、システムの設備管理が容易になります。得られたデータは、さらなる設備投資先を決定する際にも役立つことでしょう。
2017年8月、YOKOGAWAは2050年に向けて、長期的なサステナビリティ目標を掲げました。それは、Net-zero Emissions(気候変動への対応)、Circular Economy(資源循環と効率化)、Well-being(すべての人の豊かな生活)の3つです。YOKOGAWAの代表取締役社長である西島剛志は、これらの目標を発表した際、次のようなメッセージを発信しています。
「YOKOGAWAは、産業や社会インフラなどの分野において、プロセスの高速化、作業負担の軽減、省エネ化の取り組みを推進し、プラントの安定性、効率、安全性を改善するソリューションを提供してまいります」
今後ともYOKOGAWAは、地球環境に配慮した継続的な事業モデルの開発を推進していきます。お客様とともにイノベーションの共創に取り組みながら、持続可能な価値の創出と、より長期的なサステナビリティの実現を目指していきます。