
廃棄物をエネルギーに変えて循環型経済を補完する方法
2050年までに循環型で気候中立(climate neutral、温室効果ガス実質排出ゼロ)な経済の構築を目指す欧州連合によれば、循環型経済とは「今ある材料や製品をできるだけ長く共有、リース、再利用、修理、改修、リサイクルしていく生産と消費のモデル」とされています。*1また、重要な点は廃棄物を最小限に抑え、最終的には廃棄物を出さないことを意味していることです。このような循環型のビジョンは、多くの国々において、法律、技術、実践を通して実現が進んでいます。「廃棄物ゼロの世界を目指す」という野心的な目標があるにもかかわらず、地球上での廃棄物の発生、投棄、焼却は毎年増え続けており、地域的および世界的にも環境に深刻な影響をもたらしています。
エネルギーを無駄にしない
国際連合環境計画(UNEP)の報告によると、現在の慣行が放置されると、2050年までに年間の都市固形廃棄物の発生量は21億トンから38億トンにほぼ倍増します。さらに懸念されることは、この廃棄物の40%が「管理されていない」、つまり投棄されるか野外で焼却され、地球温暖化を引き起こすメタンガスの発生が周辺地域の健康と安全を脅かしているということです。とくにアジアやアフリカ大陸などの急成長を遂げている経済圏では、急速に増加する人口と消費を背景に、管理されていない廃棄物による極めて深刻な問題の発生に直面することが予想されています。*2残念ながらこのままでは、そびえ立つ廃棄物の埋立地で火災が起きたり、近隣住民の上に崩れ落ちたりというような恐ろしいニュースの報道が増えていきそうです。
理想的な世界では、廃棄物の削減、再利用、リサイクルのシステムが完成するにつれて、このような廃棄物の埋立地の存在は過去のものとなっていくでしょう。しかし、現在のところ最高の技術をもってしても、多くの家庭ごみのリサイクルは技術的および経済的にも不可能かもしれません。このような「残留廃棄物」は埋立地に持ち込むと、メタンガスの排出や有毒物質の漏出を減らすための管理を完全に行っても、土地不足の都市近郊で貴重な土地を占有してしまいます。これ以外に、廃棄物発電(WtE)プラントに持ち込んでごみを焼却し、体積を減少させて資源に変えるという手段があります。
欧州のWtE技術協会は次のように述べています。「廃棄物からエネルギーへの転換は、リサイクルができず有害ではない廃棄物から資源を回収するための包括的なアプローチです。廃棄物を埋立地から転用し、金属や鉱物を回収し、(廃棄物の生分解性部分から)再生可能エネルギーを生産します」。*3
廃棄物発電プラントは廃棄物の発生を減らすインセンティブを減少させるという批判がありますが、多くの発展途上国で見られる管理されていない埋立地や野外投棄という選択肢は、はるかに悪いものです。UNEPの2020年の報告書「廃棄物のエネルギーへの転換:情報に基づいた意思決定のための考察」は、次のように指摘しています。「廃棄物をこれらの埋立地、野外投棄、野外焼却から廃棄物発電プラントに転用することで、廃棄物の分解から発生するメタンを減少させることができます」。*4
一方で、廃棄物発電プラントが廃棄物を焼却する際に健康被害をもたらすという懸念もあります。しかし、UNEPの報告書は、最新の排出制御の技術進歩によって、有害な大気汚染物質の公衆衛生への影響は最小限に抑えられ、削減することができるとしています。
実際に、世界の1,800カ所にある 廃棄物発電プラントのほとんどは先進国にあり、とくにスウェーデン、ドイツ、日本のようなリサイクル率が比較的高く、汚染法が厳しい国に多くあります。例えば、スウェーデンでは家庭からの廃棄物で埋立地に送られるのはわずか1%です。残りの半分はリサイクルし、その残りを廃棄物発電プラントで焼却します。これにより人口約 1,000 万人のうち 150 万世帯に地域暖房を供給し、78 万世帯に電力を供給しています。*5
最先端の廃棄物発電ソリューション
YOKOGAWAにとって、廃棄物発電やバイオマス発電プラントの効率をさらに向上させることは、カーボンニュートラルでより循環型の世界経済の実現に向けた事業とコミットメントにおいて、長年、重要な部分を占めてきました。YOKOGAWAの計測と制御の技術は、ボイラーの起動時の安全性の向上、燃焼時における効率性の確保、蒸気の生産を安定させる最適な燃料の混合、そして有害な排出物の排除などに活用されています。また、これらの技術は廃棄物発電プラントだけでなく、例えばタイの粉砕した籾殻、ハンガリーの木材チップ、日本の鶏糞などを燃焼して発電するバイオマスプラントにおいても使用されています。
廃棄物やバイオマスによる発電所向けに制御、監視、保守のためのさまざまなシステムソリューションを提供するYOKOGAWAは、世界中で合計3ギガワットの発電を支えてきた実績があります。現在、より効率的なプラント操業のニーズに応えるために、ソリューションのラインアップを拡充しています。
2022年、YOKOGAWAは廃棄物・バイオマス発電プラント向けの技術を保有するデンマークのDublix Technology ApSを買収しました。Dublixのソリューションは、24時間体制で最適な効率でプラントを稼働させる燃焼制御ソフトウェアソリューション「FuzEvent」などを有し、燃焼制御とボイラーの効率を向上させます。
家庭ごみは発熱量と水分含有量が一定でなく、タービンを回転させる蒸気量が変動し、発電量が不安定になるという課題がありますが、Dublixの燃焼最適化ソリューションは、この技術的な課題を克服するのに極めて有効です。発展途上国の家庭ごみは、先進国の家庭ごみよりも発熱量が低く、水分含有量が高いため、これらの成長市場では不可欠なものです。
さらに、Dublix は稼働中でもボイラー内の燃焼ガスが通過する部分を効果的に洗浄し、付着物を除去する「DD-Jet システム」というジェットベースの技術を有しています。この洗浄により、効率が向上するだけでなく、腐食が軽減されてプラントの寿命が延び、計画外の停止も減少します。これらをはじめとするソリューションは全て、プラントの効率と収益性の向上に貢献します。*6
2023年、YOKOGAWAはクラクフにあるポーランド最大の廃棄物プラントで性能試験を実施し、排出量を政府が設定した制限値内に抑え、蒸気タービンの最適運転を行いながら廃棄物焼却量を2.5%(プラントがフル稼働した場合、年間5,500トンに相当)増加させることに成功しました。 プラントの効率を高めることで、クラクフのプラントは稼働率を上げ、廃棄物の焼却量に応じた処理手数料からの利益を増加させることができました。
悪循環を好循環に変える
増え続ける廃棄物に対処するには、埋立地の管理の改善や廃棄物発電プラントの効率化だけでなく、包括的なアプローチが必要になります。その一つが「統合的廃棄物管理」です。これは、固形廃棄物のあらゆる側面を包括的に、持続可能な形で、かつ戦略的に管理し、資源利用を最大化するアプローチです。UNEP の研究者によると、このアプローチはより清潔で安全な近隣地域、より高い資源の利用効率、最終処分廃棄物の削減による廃棄物管理コストの削減をもたらすものと期待されています。*7
このアプローチにおいてもYOKOGAWAは、廃棄物問題に本格的に取り組むインドなどの重要な市場にソリューションを提供するため、現地での取り組みを行っています。2023 年、YOKOGAWAはインドで廃棄物の分別とリサイクルに加え、プラスチックから高品質の代替燃料を生成する実績をもつシンガポールの廃棄物管理会社である Ideation 3X の少数株式を取得しました。
YOKOGAWAとIdeation 3Xは、インドの都市廃棄物に対して、より統合されたソリューションを提供することを目指しています。インドは、国内にある約3,000か所の廃棄物の埋立地を浄化し、循環経済の原則に基づいた新しい廃棄物施設と処分方法の導入のために5億米ドル以上を計上しています。*8これには、廃棄物の量を衛生的、かつ気候への影響を抑えながら削減し、同時にインド国内の電力不足を緩和できる廃棄物とバイオマス発電プラントの計画が含まれています。*9インド政府は現在の容量の30倍に相当する5ギガワットの廃棄物発電プラントの規模になると試算しています。*10
廃棄物発電プラントの普及には、特に発展途上国では廃棄物の処理に費用がかかることや、原料の確立、高度な技術、適切な規制の監督を含む複雑なビジネスモデルの確立などのハードルが残っています。しかし、廃棄物の急増問題と闘う多くの国にとって、重要な選択肢であることには変わりがありません。
アジア開発銀行の持続可能な開発および気候変動部エネルギー部門グループ責任者であるヨンピン・ザイ氏は、2020年の報告書で次のように述べています。「廃棄物からエネルギーへの転換は、天然資源の効率的な利用、排出量の削減、雇用の創出、イノベーションの促進を通じて、経済的、社会的、環境的に相乗効果をもたらす循環型経済のソリューションの一つです。高度な熱技術が高いレベルの衛生とベースロード(基底負荷)エネルギーを提供する一方で、一般的な都市廃棄物の3分の2は、より高い経済的、社会的インパクトをもたらすその他の形態のエネルギーや燃料、化学物質、肥料に変換されています」。*11
この重要なインパクトに向けて、YOKOGAWAのグローバルネットワークは、よりスマートで、より循環型の地球のために、技術と技術をつないでいます。
References
*1 欧州議会: https://www.europarl.europa.eu/topics/en/article/20151201STO05603/circular-economy-definition-importance-and-benefits#:~:text=The%20circular%20economy%20is%20a,reducing%20waste%20to%20a%20minimum
*2 国際連合環境計画:
https://www.unep.org/resources/global-waste-management-outlook-2024
*3 ESWET:
https://eswet.eu/how-waste-to-energy-contributes-to-the-circular-economy/
*4 国際連合環境計画:
https://www.unep.org/ietc/resources/publication/waste-energy-considerations-informed-decision-making#:~:text=Landfill%20and%20open%20dumping%20are,methane%20generated%20from%20waste%20decomposition
*5 Earth Org: https://earth.org/sweden-waste-to-energy/
Avfall Sverige:
https://www.avfallsverige.se/media/vtldhtom/2021-09-kort-eng.pdf
,
https://www.avfallsverige.se/in-english/swedish-waste-management/treatment-methods/#:~:text=Landfill%20is%20the%20treatment%20method,sent%20to%20landfill%20each%20year
Reasons to be Cheerful: https://reasonstobecheerful.world/waste-to-energy-sweden-power-plants/
*6 国際連合環境計画: https://www.unep.org/ietc/resources/publication/waste-energy-considerations-informed-decision-making
*7 国際連合環境計画: https://sustainabledevelopment.un.org/content/dsd/csd/csd_pdfs/csd-19/learningcentre/presentations/May%202%20am/1%20-%20Memon%20-%20ISWM.pdf
*8 ブルームバーグ: https://www.bloomberg.com/features/2022-methane-landfills-south-asia-climate-health-hazard/
*9 ロイター: https://www.reuters.com/business/energy/india-projects-biggest-power-shortfall-14-years-june-2024-05-09/
*10 ブルームバーグ: https://www.bloomberg.com/news/features/2023-12-05/how-cop28-could-impact-india-s-waste-to-energy-industry
*11 アジア開発銀行: https://www.adb.org/sites/default/files/institutional-document/659981/waste-energy-circular-economy-handbook.pdf