Industrial Autonomyがもたらす未来
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、人やモノの移動が制限され、世界の需要は冷え込みました。経済活動は減速し、原油価格の急落、サプライチェーンの混乱を招きました。企業や社会は、人と人との接触を減らすべく、デジタル化への移行を迫られています。変化、不確実性、複雑性、曖昧性に覆われたこの時代に、企業はどうすれば重要なステークホルダーである社員を細菌やウイルスから守り、ポストコロナの世界に向けて、どのように戦略や業務を変革していくべきでしょうか。
スマート化の時は来ている
― 安全、効率、収益性を向上させるインテリジェントな方法を見出すには、新たなアイデアや技術が不可欠です。
インターネットに生産設備を接続することで、収集したデータを活用した改善点の特定やパフォーマンスの最適化を行うことができます。人や機械などのリソースが相互につながることで、あらゆる情報を共有することも可能です。作業性やユーティリティの活用効率を高めるスマート・ファシリティ・マネジメントの事例は、今後ますます一般化していくことでしょう。また、パンデミックの対策として社員の健康や安全を守るべく推進された企業のリモートソリューションの導入は、業務の効率化をもたらしています。
主要製造業における企業の動向を把握するために、YOKOGAWAではIndustrial Autonomy(産業における自律化)の見通しに関する調査*1を実施しました。この調査によると、今後数年間において多くの企業が、サイバーセキュリティ、クラウド、アナリティクス、ビッグデータ、人工知能(AI)など、業務における自律化のレベルを高めるための積極的な投資を検討しています。また、リモートオペレーションやリモートサービスの利用も重要な課題です。世界的な経済危機にもかかわらず、既存のシステムやオペレーションの見直しとともに、プラントの無人運転や業務プロセスの無人化への取り組みが加速しているのです。
「新たな技術の台頭は、経済や社会全体に大きな影響を与えながら、明日の世界を形づくることでしょう。第4次産業革命に突入した今、私たちが発展し続けるためには、こうした新しい技術革新が人類に貢献するかを見極めることが大切です」
-Mariette DiChristina, Editor-in-Chief of Scientific American, and chair of the World Economic Forum Emerging Technologies Steering Committee
産業のオートメーション化が製造業に革命をもたらしたように、緩やかな進化を続けるIndustrial Autonomyがより高度化すれば、自律的な制御、管理による製造が可能になります。実際、調査に回答した企業の8割近くが、リモートオペレーションの積極的な実施や試行をしています。さらにIndustrial Autonomyは、プロセスの効率化や無駄の削減を促進するとともに、より少ない原材料、時間、エネルギーで収益をもたらすと期待されています。そして、人と機械の協働を最適化することができれば、社員は、安全な状況下でより付加価値の高いプロジェクトに専念することが可能となります。
ただし、Industrial Autonomyへの道にはさまざまな課題が待ち受けており、多くの時間や忍耐力が要求されます。暗黙知の継承、IT人材の確保、人と機械の協働における安全性の確立、労働組合との同意など、検討を要するハードルが少なくありません。そこでYOKOGAWAでは、お客様のデジタルトランスフォーメーションの加速に貢献するためのロードマップを作成し、ご提案しています。最新のデジタル技術を駆使しながら、お客様やビジネスパートナーと連携することで、Industrial Autonomyの実現に向けた歩みを着実に進めています。
テクノロジーに生命を吹き込む
― ロボットが人間的な知性を持てば持つほど、私たちの未来はより生産的で充実したものになります。
石油・ガスの分野では、リモートオペレーションによる無人化への移行に着手する企業が増えています。油井や原油の貯蔵、測定、処理が行われる中央処理施設(CGF: Central Gathering Facility)は通常、遠く離れた厳しい自然環境下にあります。従来はそこに人員を派遣して操業を監視していましたが、中東にある石油会社では人員を配置しない試みを行っています。その中核を担うのが、YOKOGAWAの高度な運転支援ソリューションであるProcedural Automation Solutionです。
CGFは人を常駐させず、緊急時に操業、監視を行う設備として利用します。代わりに、中央脱ガス処理施設 (CDS: Central Degassing Station)を中央制御センターとして機能させ、そこに人員を派遣します。ここから、最小限のオペレーターで、油井やCGFを監視するのです。運転時の異常は自動で検知、調整され、効率的で安定した操業が行われています。また、Procedural Automation Solutionは油井を制御する坑口装置のスタートアップ、シャットダウンの業務にも応用されています。ミスが許されない重要なプロセスであり、万が一のことがあれば環境や経済にも重大な影響を及ぼす可能性がありますが、人手を介すことなく、正常にスタートアップ、シャットダウンが行われています。
各工場に専任の技術者を配置する代わりに、監督者をリモートで本社に常駐させることで、工場を統合監視する企業が増えています。YOKOGAWAのソリューションは、プロセスをリアルタイムに監視し、遠隔地からのデータ収集、分析を可能にしています。業界の専門知識(ドメインナレッジ)に特化したAIがデータを分析、予測することによって、無人化という目標が現実化しつつあります。これにより、経営状況に応じた柔軟な調整を可能にする迅速な意思決定、さらには生産実績やプロセスの継続的な最適化を実現し、コスト効率や利益の拡大に貢献しています。
また、YOKOGAWAはAIの分析に基づき、お客様の自律化を達成する道のりを支援するソリューションの開発にも取り組んでいます。新世代のデジタル技術と業界最先端のナレッジを融合することにより、ロボット工学を応用した作業の自律化や即時化を図るプロジェクトを進行させています。
さらにYOKOGAWAでは、作業ロボットのテストを行い、作業内容、可動域、精度、速度などの能力を評価しています。また、SPRINT Robotics CollaborativeやROS-Industrial Consortiumといった業界団体と連携し、最新のロボット技術や産業ニーズの検証にも取り組んでいます。今後もロボットを活用したデータ収集プラットフォームの開発を進め、お客様の製造現場が直面する安全、環境、コスト面の課題解決を提案できるシステムインテグレーターを目指していきます。
「30年後には、ロボットが最高のCEOとしてタイム誌の表紙を飾るでしょう。人間の能力を超えた機械は、雇用を脅かす敵ではなく、協力し合えるパートナーになるはずです」
-Jack Ma, Founder, Alibaba*2
COVID-19の流行により、個人も企業も社会も、利益重視の短期的な経済システムから脱却し、「ニューノーマル」へと移行しています。今後の目標に掲げられているものとして、人や社会、環境に優しい「ステークホルダー資本主義」という先見的なモデルがあります。持続可能な経営を実現するためには、企業価値だけでなく社会的価値を高めることが不可欠であるという認識のもとに、企業経営者の意識は根本から変わりつつあります。
技術は未来を創造しますが、その発展の原動力となるのは社会が求める未来への期待です。多くの企業は、ステークホルダーの利益、人と機械の関係、社会にとって最適な未来を見据えながら、共創に取り組んでいます。YOKOGAWAは、計測、制御、情報の技術をコアコンピタンスとして、より良い明日を創造するべく邁進しています。プラントや社会インフラの安全かつ効率的な運用を支援し、複数のプラントにまたがるエコシステムを構築することで、お客様のバリューチェーンの最適化を支援し、最先端の研究開発を継続していくことでその責務を果たしていきます。
YOKOGAWAは、Industrial Autonomyを追求しながら、人、社会、環境にとって最も有益な技術とは何か、そしてこの世界をどのようにして次世代に引き継いでいくかを考え続けています。持続可能な未来に向けて新たな価値を創造し、社会や産業からの高まる要求に応えるべく、共創によるイノベーションを加速していきます。
参考文献
*1 : “The Outlook for the Shift to Industrial Autonomy,” Yokogawa Electric Corporation (2020)
*2 : Jack Ma, Founder, Alibaba; CNN Business online, April 24, 2017